それが目当てじゃありません V
「凛の恋人の婚約者の人ですね」
女は眉をひそめ、林田が、
「晶生ちゃん、その言い方おかしい」
と言っていたが。
凛からしたら、そうとしか言いようがない相手だし。
悪いのは、凛ではなく、二股かけていた、その婚約者だし。
……もし、沐生が二股かけやがったら、即行、あのダムに落とすな、と思っていた。
よく考えたら、殺されても仕方ない男に思えてきたな、と思いながら、
「どちらが殺しててもいいと思うんですけど」
と思わず口走ると、はいっ? と良識ある皆さんが訊き返してきた。
「どっちも殺してないみたいですね。
人を殺したら、こんな風に、カラッとした空気をまとってないです」
実感を込めて言ったあとで、
「それに、どちらかにその殺された男が恨んで憑いているってこともないですし」
とうっかり言うと、二人とも表情が暗くなってしまう。
「あ、ごめん……」
とどちらにともなく謝った。
うっかり、二人の側に恋人の霊は来ていないと、暴露してしまったからだ。
ロクでもない男だったのかもしれないが。
そうとわかっていて、離れられないほど、この二人はその男のことが好きだったのだ。
死んでも側に居て欲しいと願っていたに違いないのに。
「ねえ、あんた、霊が見えるの?」
と女は晶生に訊いてきた。
「あの人、何処に居るの?
この女の側にも居ないのよね」
と凛を指差す。
「ええっと……。
お二人の側にも、実は、ダムにも居ませんでした」
「じゃあ、第三の女が居て、そこに居るとか?」
「ええっ?
ご両親の側かも知れませんよ」
と言うと、二人同時に眉をひそめる。
「そんなマザコンは嫌」
「いい年して、そんな親離れ出来てないのは嫌」
「それぐらいなら、別の女の側に居た方がマシよ」
と二人が言う。
どうもこの二人は、似たタイプの人間のようだった。
被害者はこの手の女性が好きだったんだな、と思う。
「晶生、あの人を探して」
「はい?」
「そうよ。
あの人が何処に居るのか、探してよ」
ええっ? なんか依頼内容が変わってきてるんですけどっ?
「犯人探すんじゃなかったんですか?」
「いや、晶生ちゃん、犯人は警察が探すから大丈夫だよ。
被害者見つけたら言ってよ。
ほら、今までは、被害者が全員生きてたから君の出番なかったけど。
霊が居るのなら、捕まえて犯人訊けばいいじゃない」
と林田は軽く言ってくる。
「……林田さん。
世の中に霊の見える人間はたくさん居るんです。
そんな簡単に事が進むのなら、この世に未解決の事件はありませんよ。
それに……霊も人です。
嘘をつくから」
と晶生は眉をひそめる。
気になっていることがあるからだ。
堺がちらとこちらを見ていた。
「なんだかわかんないけど。
ともかく、あんた、頼んだわよ」
と女に手を握られ、晶生は、
「……ところで、名前なんて言うんですか?」
と訊いた。
「まず最初に訊きなさいよ……」
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