霊の居処 I
「相変わらず、綺麗ねえ、堺さん」
玄関を入りながら、母親が笑って言う。
……男だけどね。
あんな外見だけど、本当は誰より、男だな。
しかも、肉食系、と廊下を歩きながら晶生は思っていた。
ちらと沐生がこちらを振り返る。
「晶生、ご飯、食べるの?
沐生も今帰ってきたから、一緒に温めるわよ」
と言いながら、母親はキッチンに向かっていった。
廊下で足を止めた沐生が笑いもせずに言う。
「遅かったな」
「スイーツの店で、婚約者の人に出会えたの。
被害者の霊を探してくれと頼まれたわ」
と言うと、……そうか、と言う。
そのまま行こうとする沐生の背に向かい言った。
「ねえ、沐生だったら、死んだら何処へ行くの?」
「死んで行くのは、あの世だろ」
とだけ言い捨てて、行きかけたが、少し振り返って言う。
「……俺に他に行くところがあると思ってるのか」
それだけ言って行ってしまう。
それが沐生の精一杯なのかもしれないが。
はっきり言って欲しいなと思うこともある。
別に堺さんに揺らいでいるわけではないのだが。
堺さんには誰よりも恩を感じているから。
あのとき、なにも訊かずに、ただ抱き締めてくれていた堺さんには――。
だから、堺さんに困ってることがあるのなら、手を貸してあげなければとは、ずっと思っている。
いつか、うっかり、殺人犯になったりとか。
うっかり事件に巻き込まれたりとかしそうな人だからな、と苦笑する。
沐生が長い廊下の向こうから振り返った気がしたが、よくは見えなかった。
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