ちょっとめんどくさいダムの殺人 V



「ただいま」

という、いい声とともに、玄関が開く音がした。


 沐生だ。


 なんてことのない顔を装い、ご飯を食べていた晶生だったが、本当は走って玄関に行きたかった。


 最近、頻繁に帰ってきてくれるっ。

 嬉しい。


 こんなに嬉しいことが続くなんて、死ぬんじゃないだろうかとか邪推してしまう。


「おかえり、沐生」

と母親が言ったあとで、一呼吸置いて、


「おかえ……」

と微笑んで呼びかけようとしたが、


「おお。

 沐生、ちょうどよかった!」

と言いながらもう食べ終わってソファに居た父親が沐生を持って行ってしまう。


 こらーっ、と晶生は立ち上がりかけた。

 いや、心の中では完全に立ち上がっていた。


 なんの急用かと思ったら、ナンプレ!?


 そんなことで、私と沐生の貴重な時間をーっ、と心の中だけで絶叫する。


「ご馳走様」

と言って、立ち上がり、茶碗を下げたあとで、さりげなく二人の居るソファの方に行こうとしたとき、携帯が鳴った。


 うう。

 間が悪い。


 堺さんか、真田だったら、殴ってやるっ、と思いながら、

「もしもし!?」

と出たが、凛だった。


「ああ、凛っ。

 大丈夫だった?」


 しまった。

 今、動転して、友人のピンチを忘れるところだった、と思っていると、察しのいい凛は、


『……あんた、今、私のこと忘れてたでしょ』

と言ってきた。


 ひいっ、と思いながら、慌てて、

「わ、忘れるわけないじゃん~っ」

という声が裏返っていた。

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