ちょっとめんどくさいダムの殺人 III

 

 凛は放課後になっても学校には戻ってこなかった。


 夕暮れの街を歩いていた晶生は、ふと思いついて、例のホテルに立ち寄った。


 事件に遭遇したら話に来いとうるさい男のことを思い出したからだ。


 いや、友人が殺人の疑いで連れていかれたこの日に、夕日を真正面から見ながら帰りたくなかったからかもしれない。


 凛が殺していないのはわかる。


 人を殺して、あんな風に真っ直ぐに人を見ることはできないからだ。


 そんな話を遠藤にしていたら、入り口の扉の軋む音がした。


 また沐生かと思ったが、何故か堺だった。


「……ストーカーが来たぞ」

 ぼそりと横に腰掛けている遠藤が言う。


 晶生は苦笑いしながら、

「どうしたんですか?」

と堺に訊いた。


「いやいや、なんとなく。

 この前を通ったら、あんたの気配がしたから」

と恐ろしいことを言ってくる。


 気配を読んでくるのか、このストー……失礼、この人は。


 いっそ、発信機をつけていると言われた方がマシだった、と晶生は思っていた。


「晶生、此処に居るってことは、なにか事件にでも遭遇した?」

と堺は笑って、こちらを見上げる。


「逆じゃないんですか?

 誰かから、私の友人が殺人事件に巻き込まれていることを聞いて、私が此処に来てるかもと思って来たんじゃないんです?」


「あんたの友人とは聞いてないわよ。

 あんたと同じ学校の子、というのを聞いただけよ」

と認め、堺は階段に足をかける。


 遠藤はすぐ前に立って自分を見下ろす堺を見上げ、

「美しいが、男か女かわからんやつだな」

と呟いていた。


「例えば、この人が貴方を殺し損ねたあの女の人の生まれ変わりだとか言い出したら、どうします?」

と訊くと、


「うーむ。

 ちょっと、考えさせてくれ」

と言う。


 あ、一応、考えるんだ? と晶生は苦笑いしながら思っていた。




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