懐古ホテル



「晶生。

 ご無沙汰だったな」


 うわー、機嫌悪いしっ。


 久しぶりにあの廃墟のホテルに行った晶生だったが、遠藤は、むすっとした顔でそう言った。


「私の知らない間に、事件を解決したりしてないだろうな」


 いや、貴方に断りなくしちゃいけないんですかね? と晶生は苦笑いする。


 階段の下から、遠藤に向かい、呼びかけた。


「暇なんでしょう?

 少し外に出てみませんか?


 私が手を引きますよ」

と言うと、私は引きこもりの老人か、と言われるが。


 いや、魂の年齢的には老人だろうよ、と思っていた。


 晶生は遠藤の側に行き、

「そんなものが刺さってるから此処に縫い付けられてるんですよ」

とその腹に手を伸ばしたが、逃げられる。


 遠藤は腹に刺さったナイフをまるで大事なもののようにかばいながら、

「……成仏したら、どうしてくれる」

と言ってくる。


「いい加減、した方がいいと思いますが」

と揉めていると、


「なにやってるんだ?」

という声が後ろからした。


 廃墟だから、よく響くというだけでなはい。

 痺れるくらいのいい声だった。


 さすが役者だ。


 振り返ると、階段下に沐生が立っていた。


 もう撮影は終わったはずだが、なにしに来た、と思う。


「ほう。

 今日は珍しく機嫌がいいな、沐生」

となにもかも見透かすように遠藤が笑う。


「身体があるというのはいいことだな」

「じゃあ、成仏して生まれ変わったら、どう?」

と晶生が言ってやると、


「まあ、私が居なくなっても、寂しがる人間も居ないしな」

と素っ気なく遠藤は言う。


「……いや、まあ、ちょっと寂しいけど」


「お前がそういうこというから」

と言いながら、沐生が側に来た。


 横に立つ彼を見上げ、やっぱりこの人が好きだな、と思っていた。


 私をどん底まで突き落としたのもこの人だが。

 引き上げてくれるのもこの人だ。


 ……ああ、それは堺さんもだけど、と思う。


 いつか沐生が言っていた。


 お前と堺との間には俺も割って入れないものがある、と。


 そんなこともないと思うが。

 まあ、あの人も間違いなく、私を救ってくれた人間のひとりだとは思う。


 ……最近ちょっと、そう言い切る自信がなくなってきたが。



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