沐生いわく、変態の人

 


 朝、沐生が現場に行くと、既に堺は先に来ていた。


 おはよう、と言ったあとで、側に来、沐生の肩の辺りに鼻を近づけ、うごめかす。


「……晶生の匂いがする」

「なにかのケモノかお前は」


 よくわかったな、と思った。


「晶生と同じ石鹸の匂いがする。

 昨日、あれから、晶生のところに泊まったのね?」


 人にはわからなくても私にはもわかるわ、と堺はわめき出す。


「ああ、私も晶生と兄妹になりたいわ」


 意味がわからんが、と思っていると、こちらを睨み、

「べったり一緒でやりたい放題じゃないの」

と言ってきた。


「いや、兄妹って、本来はそんなもんじゃないだろ」

と言うと、


「あんた、最初から計算づくで、晶生の家にご厄介になったんじゃないでしょうね」

と言い出す。


「それで、年端もいかない晶生を――」


「妄想はそこまでにしとけ」


 このロリコンの変態め、と思った。


 そもそも男か女かはっきりしやがれ。


 そこのところを曖昧にしているから、晶生もつい、警戒せずに堺を近づけてしまっているのではないかと思っていた。


 罠か?

 お前こそ、計算か?


 昨日、殊勝にも、

『マネージャー、続けてもいい?』

 などと訊いてきたくせに、今日はもういつも通りだ。


「早くしなさいよ、沐生。

 みんな待ってるわよ」


 周りの目を気にして、堺がそう急かしてくる。


 おかしなことを言って、お前が引き止めたんだよな? と思いながらも、すみません、と謝りながら、スタジオに入る。


 本当に困ったマネージャーだと溜息をついた。





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