めんどくさいダムの殺人

兄妹

 


 深い深い水の底に晶生は居た。


 いや、底でもないか、と思う。

 ふんわりと中途で浮いている感じだ。


 自分の周りにあるそれは、あのダムの水のような気がするのに、水面から輝く日の光が降り注ぎ、綺麗だった。


 太陽に水も温められ、まるで光の水の中に居るように感じる。


 晶生は穏やかな気持ちで目を覚ました。


「おはよう」

と横に居た沐生が言う。


 そうか。

 あのまま寝ちゃったんだ、と気づいた。


 もう朝だ。


 ……朝?


 はっと起き上がった晶生が、

「も、戻って戻って。

 自分の部屋にっ」

と追い立てようとすると沐生は笑う。


 わ、可愛い、と思ってしまった。


 いつもこの男、表情がないのか、と思う感じなのに、たまに笑うと、めちゃめちゃ可愛いとか思ってしまう。


 そんな風な顔でもないのに。


「別にいいだろ。

 テレビでもつけろよ。


 朝早く目が覚めたから、二人で見てたって言えばいいだろうが」


 それはそうだが。


 それにしても、本当にうちの両親は沐生とのことを疑ってはいないのだろうが。


 家は古いが広い日本家屋なので、両親の部屋とは距離がある。


 というか、沐生の部屋からも距離があるはずなのだが。


 自分の部屋にもテレビがあるのに、此処までわざわざ見に来るのはおかしいような、と思ったのだが、せっかくいい気分で目が覚めたので、それ以上、揉めたくなく、晶生は黙った。


 沐生の言う通りテレビをつけ、これを見てたことにしよっと、と昨日、録ったばかりの洋画を見る。


 なんとなく、沐生の胸に背を預け、二人でぼんやり、それを見ていた。


 サスペンスものだ。

 そういえば、一緒に、どきどきすると、恋に落ちやすいというが。


 これもそうなのかなー。

 吊り橋効果。


 あんなことがなくても、私たちはずっとこうして一緒に居ただろうか。


「なに考えてる?」

と沐生が耳元で囁く。


「別に」

と答えたとき、母親が戸を開けて歩く朝の行事的な音がした。


 風が強く当たる窓は、夜間は雨戸を閉めているのだ。

 戸を開ける音と、母親の足音がすぐそこで聞こえる。


 沐生はただ、振り返っていただけだったが、晶生は慌てて離れた。

 用意していた言い訳を言うために。




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