ダム穴
またあの夢だ。
揺れる月が黒い水の上で揺れている。
ダムの月。
美しいそれまで、ぽっかりと空いたダム穴に呑み込まれていく幻を見る。
なにが真実なのか。
堺は自分に霊が見えると認めた。
では、あれは……。
そんなことを考えていたとき、晶生の後ろに誰かが立った。
はっ、と振り返る。
また、男が立っていた。
お前だ……と男は言う。
月明かりを背にした男は晶生の首に手をかける。
「お前だ、俺を殺したのは」
そう言い、男の手が晶生の首を絞めようとした。
そのとき、冷たい手が沐生の額に当たった。
夢よりも強い現実の感覚に目を覚ますと、いつもと同じ天井と――
沐生の顔が見えた。
自分を覗き込んでいる。
あのまま、沐生も一緒にこっちに帰ってきたのだ。
自分がうなされていたからか。
うなされるとわかっていたからか。
様子を見に来てくれたようだった。
起き上がった晶生は沐生に縋るように身を寄せる。
沐生はそんな晶生を抱き寄せ、そのまま口づけてきた。
私は真実をはっきりさせたいのか。
させたくないのか――。
させたくないのは、すべてが白日の下にさらされたとき、私と沐生を繋ぐ秘密も消えてしまうからなのか。
自分の気持ちも真実もわからないまま。
今はただ、こうして、沐生に抱き締めていて欲しいと願っていた。
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