霊の出る家 V

 


「笹井さん、あれ、祓ってきてくださいよ」

と晶生が沐生の後ろを指差すと、ええっ? という顔を笹井はする。


「たぶん、貴方、祓うのは祓えるんでしょ?

 見えてなくても」

と言うと、


「いやいやいや、無理ですよ」

とこの霊能者は言う。


 ほんとにとんでも霊能者だな、と思いながら、

「祓えますよ、やってください」

と笹井を見上げた。


「貴方に霊があまり見えないのは、守護霊が強いからです」

「えっ」


「貴方に霊能力はあります。

 でも、守護霊が強く守っているから、あまり見えないんです。


 祓うのは祓えますよ。

 今までもスタジオとかでやってたじゃないですか。


 見よう見真似な感じで。


 時折、ちゃんと祓えてましたよ」


 時折? と笹井は訊き返す。


「たまに、方向と祓うべき人が違ってたんです。

 今なら、私がガイドするから出来ます。


 さあ、どうぞ」

とファミレスでいらっしゃいませ、こちらへどうぞ、というように掲げた晶生の手を誰かが掴んだ。


「そこまでだ」


 晶生は掴まれた手を見、

「……なにかの犯罪犯して、捕まった、みたいになってますが」

とその手の主を見上げる。


 汀だった。

 社長、と堺が頭を下げる。


「なにかやらかすんじゃないかと思って来てみてよかった。


 莫迦かお前は。

 心霊スポットを巡る前に霊を祓うな」


 その言葉を受け、うーん、と堺も腕を組んで唸る。


「確かに。

 じゃあ、晶生ちゃん、撮影が終わるまで待ってよ」


 汀が堺を見た。


「晶生は私がおとなしくさせときますから、大丈夫ですよ、社長」


 こうやって、堺が後ろから羽交い締めにしてくる。


「ちょっとっ。

 離してくださいよっ」


 真田が、わああああっという顔をしていた。


 楽しそうに笑っている堺に、汀が、

「お前、それ、やりたいだけだろう……」

と言ったそのとき、

「沐生さんっ」

と声がした。


 見ると、沐生が屈んで、自分の足首を掴む女をじっと見ている。


「あの莫迦っ」

と汀が声を荒げたが、どうも沐生にはなにか気になることがあるようだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る