居るよ…… I


「沐生さんっ」

と誰かの声がして、沐生は撮影中だったことに気づく。


 下に居る女から視線を上げ、また淡々と台本通りにレポートを続けた。

 みなが安堵の表情を浮かべるのが見える。


 それにしても……。

 この女の顔、何処かで見たような、と思っていると、それに共鳴したように、ギリリ、と自分の足を掴む力が強くなる。


 ……クセニ


 ん? と下を見ないまま、そちらに意識を向ける。


 ……テタ クセニ




 見テタクセニッ!


 相当な力で足を掴まれたが、素知らぬ顔でリポートを続けた。




 一旦、休憩に入ったあと、

「いやあ、長谷川さん。

 よかったですよ、意外にー」

と、それは褒めてるのか、と問いたくなるような台詞を吐きながら、プロデューサーが近寄ってきたが、沐生は頭だけは丁寧に下げ、通り過ぎる。


 人は自分を寡黙な人間だと思っているようだが、言いたいことはたくさんある。


 ただ、それが口から出て行かないだけだ。

 言ったところで、あまり理解されないと思っているせいかもしれない。


 だが、晶生に言わせればきっと、

「それが寡黙ってことなのよ」

と素っ気なく言われてしまうだけだろうが。


 堺たちと一緒に、晶生が渋い顔で待っていた。


「見せて」

と言う。


「見せて、足」


 沐生は少しズボンの裾を持ち上げてみせた。

 くっきりと女の手の痕が付いている。


 うわっ、と相変わらず、何故か居る真田が声を上げた。


「……この撮影、やめられないの?」

と溜息まじりに晶生が呟く。


 汀が眉をひそめ、

「そうしてやりたいところだが。

 沐生の身体に傷がついても困るし」

と言う。


 そこかい、という顔を晶生がしていた。


「途中で止めるのは無理だな。

 それと……これから、あの民家に入ってもらわないといけないんだが」


 さて、どうするか、と汀は言う。


 どうも、このあとは、あの霊が出てきた方の家に入ることになるようだった。

 ドッキリで。


 ……ドッキリでって既に俺に知れてるというのもどうなんだ、と堺を見たが、こちらを見ない。


『だって、ドッキリだって言ってなかったら、あんた、怒りそうじゃない』

と堺は言うが、どのポイントで驚く芝居をすべきかだけをさっきからずっと考えている。


 一番驚くことはさっき会ったしな、と這い出てきた霊を思った。


「笹井さん、あの霊、どうにかなりませんかね?」

と汀が笹井を見る。


「えっ? 私がどうにか出来るとでも?」


 いや、あんた、霊能者だろ、と思っていると、汀はもっと難しい注文を出す。


「ちょっと霊が映る程度に霊の出現を抑えて欲しいんですよ」

「ええっ?」


「社長、無理ですよ」

と晶生が苦笑いして言う。


「そんなに霊を映したきゃ、ノリノリでやってくれそうなのを一体、知ってますが」

と晶生が言うので、


「あれは此処まで引っ張ってこれないだろ」

と言う。


 恐らく、遠藤のことだろう。


 この女、何故か遠藤が気に入ったようで、あれからもちょいちょい会いに行っているようだった。


 相手が霊とは言え、あれだけの男前だ。

 ちょっと面白くない。


 引っ張られたらどうするんだ、と思っていた。


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