霊の出る家 IV



「待ってたわ、晶生ちゃん」

という堺の声を聞いたとき、


 なんだろう。

 飛んで火にいるなんとやらみたいになってきた、と晶生は思った。


 結局、心配になって、汀にもう一度連絡し、堺に現場まで連れてきてもらったのだ。


 なにしに来た、という目で打ち合わせをしている沐生がこちらを見る。


 そして、晶生もまた、横目に、なにしに来た? と見た。


 真田まで、ついてきていたからだ。


「ところで、なんのレポートだ、これ」

と真田が訊いてくる。


「古民家カフェのレポートと見せかけて、実は、ドッキリつきの心霊スポット巡りです」

と側で声がした。


「笹井さんっ」


 偽霊能者の笹井光一が立っていた。


「おはようございます。

 いやあ、晶生さんがいらっしゃると、心強いですね」

と微笑みかけてくる。


「いやあの、……教えませんからね」

と言ったが、ははは、と笑っている。


 盲目の霊能者であるはずの笹井だが。

 目は見えていて、霊は見えていない。


 逆だろ、と突っ込みたくなった。




 なにやってんだ、あいつら、と沐生は横目に晶生たちを見ていた。


 何故、お前が来ているっ、と晶生を見、

 何故、お前も来ている……っ、と真田を見た。


 堺が周りには新人タレントを見学に連れてきたと言って歩いているようだった。


 ほんとになったら、どうしてくれる、と思っていた。


 自分はテレビに出ておいてなんだが、晶生をこんな世界に関わらせたくない。


 しかも、古民家カフェのレポートだと聞いたのに、何故か、その古民家の横の家から、血まみれの女が這い出してきている。


 これは……


 霊?


 事件?


 或いは、ドッキリか!?


 晶生っ、どれだーっ!?

と台本通りにレポートしながら、沐生はその眼力で晶生を睨みつける。




「あれっ、比較的上手くやってるじゃないですか」

と撮影を見ていた晶生がもらすと、


「レポーターの役だと思って演じなさいってこの敏腕マネージャーが言ったからよ」

 ふふん、と堺が言う。


「自分で、そこ、言わなきゃ褒めるのに。

 ……ところで、さっきから、沐生の後ろの家から女の人が這い出してきてるんですけど。


 あれ、ドッキリですか?」


 ひっ、と側に居た若いADが身をすくめる。


「み、見えるんですか?」

と晶生を見た。


「え?

 女の人が、かなりはっきりと」

と呟くと、笹井が、


「相当此処で目撃されてるらしいですよ。

 午後二時頃出るって話で」

と教えてくれる。


 彼は前情報として知っているだけで、見えてはいないのだろうが。


「昼間なのに」

と呟くと、


「昔、此処で事件があったらしいですからねえ」

と笹井が言う。


「事件ねえ」

と呟いたとき、堺が真面目な顔で、腕を組み、沐生の後ろを見ているのに気がついた。


「どうしたんですか。

 女性らしさが欠片もなくなってますよ」


 その毅然とした横顔をちょっと格好いいなと思ってしまい、小声でそう警告すると、……ああ、いけないいけない、といつもの口調で言っていた。


「やっぱり、堺さん、見えてるんでしょう」

と少し笑って言ってやると、


「いや……今はほんとに見えないわ」

と呟きながら、そこを見ていた。


 やっぱ、普段は見えてんじゃん、と思った。

 堺にしては、大失態な発言だが、どうかしたのだろうかと逆に心配になる。


 そんな堺と自分を窺うように真田が見ていた。


 そのとき、

『晶生、こらーっ』

という念波のようなものを感じて顔を上げる。

 沐生だった。


 そこに居るのなら、教えろ、と思っているのだろう。


 彼に向かって手を振る。

 その人、生きてないよ~という合図だった。


 沐生の目が少し穏やかになる。

 ほっとしたようにレポートを続けていた。


 いや、あまりほっとするところでもない。

 女に足を掴まれてるし……。


 だが、そんなのはよくあることだから、生きていないのなら、まあ、いいか、とでも思っているのだろう。

 とりあえず、気にはしていないようだった。


 あんた、私が来てなかったら、どうするつもりだったんだ、と思っていると、後ろでも、

「いやー、晶生ちゃんが居てよかったー」

と笑う人が居る。


 貴方、今まで一体、どうやって対応してたんですか……と笹井を振り返った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る