霊の出る家 III
晶生が逃げるように出て行き、汀は堺にかけかけた電話の手を止める。
彼女が消えた扉を見て、溜息をついた。
こういう仕事をしていると、人の成長というのは不思議なものだな、と思うことがある。
子役だったときとは、イメージがまるで変わってしまう人間も多いからだ。
坂本日向とかな。
もうちょっと純粋そうな愛くるしい子供だったのに、まさか、あんな口の立つグラビアアイドルになるとは。
沐生は、なんにも変わってないな。
堺はもうちょっとチャラ臭かった。
いや、まさか、役者やモデルをやめて、沐生のマネージャーになりたいと言うとは思わなかったが。
だが、もっとも変わったのは、晶生だ。
初めてスタジオに現れたときもびっくりしたが、一緒に撮影に入って、もっと驚いた。
その透明感というか。
現実にそこには存在して居ないかのような空気感というか。
当時はまだ人手が足らなくて、自分もモデルをやっていた。
小さな女の子と一緒に撮影するシーンが必要で、急遽連れて来られたのか、晶生だった。
本当に、体重とかないかのように、ふわりとした雰囲気があった。
無意識のうちに、小さな彼女の前に跪いて、その手を差し出していた。
後にも先にもあんなに穏やかに自分が微笑んでいる写真は他にない。
それがあんな目の据わった女になるとはな。
今の方が綺麗かもしれないが、俺は昔の晶生の方が好きだ。
いつからあんな風になったのか。
不満を込めて、壁に飾ってある額を見る。
木の下で、自分が子供の晶生に跪き、手を差し伸べている写真だ。
「晶生がやると思ったから、事務所の社長も引き受けたんだがな」
あれは長谷川沐生以上の役者になれたかもしれないのに、と思いながら、その写真を眺める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます