霊の出る家 II

 


「社長、なんてことしてくれたんです」


 突然、晶生がそう言うと、振り返り窓の外を見ていた男が、うわっと声を上げた。


 らしくもないその態度に笑いそうになる。


「……何処から入ってきた」

と言われ、入口を指差す。


「吉永さんに言ったら、通してくれましたよ」

と言うと、吉永〜、と今此処に居ない秘書に向かい、低く呻いていた。


 沐生の所属する事務所の社長、茅野汀かやの なぎさだ。


 昔、晶生たちがモデルをやっていたブランドの社長の息子だ。

 整った上品な顔つきだが、なにか企んでなくとも、企んでいそうに見える。


 昔、ブランドで雇っていた素人のモデルたちが評判が良く、他の仕事が舞い込み、なんとなく、マネージメントしているうちに、芸能プロダクションっぽくなったが、元々は、この会社の一部門に過ぎない。


 だから、汀も此処での仕事と兼任で、芸能プロの社長をやっている感じだ。


「俺はお飾りの社長だ。

 文句は松本に言え」


 実質事務所の社長をやっているのは、副社長の松本という、笑顔で押しの強いおじさんだった。


「沐生がレポーターをやる話、社長が何処からか頼まれたから受けたって聞きましたよ」

「他との兼ね合いでな」


 汀は電話の内線ボタンを押し、

「吉永、こいつを叩き出せ」

と言っている。


「大人気ないですね〜」

「此処に文句を言いに来たければ、もう一度、事務所に所属しろ」


「嫌ですよ。

 レポーターなら、貴方がやったらどうですか?


 貴方の方が似合いますよ」

と言ってやると、なんで今更、俺が、と言っている。


 こちらをちらと見、溜息をつく。


「昔は天使のように可愛らしかったのに」

「そんな人間、この世には居ませんよ」


 腕を組み、晶生はデスクの汀を見下ろす。


「霊と人間の区別のつかない沐生にレポートさせるなんて。

 生きてない人間にインタビューとかし始めたらどうするんですか」


「意外にこの人、天然ボケね、と女子に人気になるだろう」


 さあ、晶生、帰れ、と言う。


「霊みたいに、ふらっと現れやがって。

 気配くらいさせろ」

と言う。


 そこで、思いついたように、そうだ、と言った。


「お前、ついて見張ってたらどうだ?

 沐生が暴走しないように」

 嫌ですよ〜、と眉をひそめる。


「堺には話しておいてやる」

と勝手に電話をかけようとする。


 待て待て待て、と止めてみた。




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