這い出づる霊

霊の出る家  I

 

 沐生がマンションに帰ってしまった。

 晶生は教室の窓からぼんやり青空を眺める。


 いい天気だ。


「晶生、聞いてる?」

と誰か友達が側で言っている。


「聞いてない」

 素直に答えると、ど突かれた。


「昼休み、終わるよ、晶生」


 凛たちがトイレに行くと言うので、いってらっしゃーい、と手を振った。

 さっき行ったばかりだったからだ。


 ひとり欠伸をしていると、

「よう」

と真田がやってくる。


「お前にいいものをやろう」

と言って、茶封筒をくれた。


「なにこれ?」

と開けてみると、沐生の写真だった。


 慌ててしまうと、

「不用意に出すなよ」

と眉をひそめられる。


「いや、これがなんだとも言わなかったじゃない」

「姉貴たちに頼まれて焼いたこの間の写真だ」


 部屋にでも貼れ、と言ってきた。


「莫迦じゃないの」

と晶生は赤くなる。


 部屋には、ひょい、と沐生も入ってくるのだ。

 こんなもの貼っていられるわけがない。


「なんでくれるの?」

「よく撮れてたから」

と真田は言うが。


 なにか裏がありそうな気がして、じっと見つめてみると、真田は目を逸らす。

 それでもなお、見ていると、ついに間が持てなくなったように、ペラペラと喋り出した。


「いや〜、最近、お前が元気がないようだから」


 その逃げた視線を追うように、顔を傾けると、

「……詫びに」

と言ってくる。


「もしかして、沐生が急に自宅に帰ったの、あんたと関係ある?」

と訊くと、


「いや、沐生さんに頼まれちゃってさ」

と白状した。


「あんたが沐生の部屋の前に居るのは霊だって言ったから、帰っちゃったの?

 もう〜」


 なんてことしてくれるのよ、と睨む。


「だって、俺にはその女が見えなかったんだよ。

 じゃあ、嘘をつけって言うのか」


 そうは言ってないけど、と言ったとき、きゃー、と隅の方で歓声が上がった。

 テレビ番組の雑誌を見ていた女子が盛り上がっている。


「長谷川沐生が初リポートだって。

 ドラマ以外に出るの、滅多にないのにねー」


 ……リポート?


「……無理だろ」

と真田と二人、その女子たちを見ながら、呟いていた。




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