謎解きの終わりに I
「転倒の仕方でわかったとか?」
「ホームズじゃないんだから。
そんな些末なことで何もかもわかるわけないでしょ。
知ってたからよ。
中岡さんが無理なダイエットをしてたことを」
「え?」
もう野次馬もバラけている。
話しても大丈夫か、と晶生は辺りを窺いながら言った。
「中岡さんはこの間まで、かなり太ってたの。
まあ、恐らく、今の状態が原型だったんじゃない?
いろいろあって、太ってたのを元に戻した。
樹里の婚約者として、表に出ても恥ずかしくないように、っていうのと、少し容姿を変えたかったからじゃないかしら」
「……もしかして、中岡さんが、前回の事件の犯人」
そりゃそうでしょうよ、と腕を組んで晶生は言う。
「そんな簡単に樹里の気がコロコロ変わるわけないじゃない。
あの廃墟寸前のホテルで樹里を刺したのは、中岡さん。
言いたくないけど」
とちらと、沐生と堺を見て言う。
「例のでっち上げの記事もあの二人の諍いの原因のひとつかも。
樹里がアイドルとして人気が出て、中岡さんと樹里の距離は遠くなった。
中岡さんは自暴自棄な生活をして太り、自分の容姿に自信を失ったところで、沐生とのスキャンダル」
「あー、そりゃ、ショックよねー。
お前、結局、ただのイケメン好きじゃねえか、と思ったわけだ」
とまたいつの間にか背にぶら下がっていた日向が言う。
あんた、仕事はいいのか、と思いながらも、手を離そうとした日向に、
「離さないで」
と言いながら、肩を掴むその手をぽんぽん、と叩いた。
沐生と堺がこちらを見る。
なんだかわからないながらも、日向は離さないでくれた。
「でもまあ、樹里が中岡さんをかばったことで誤解は解け、二人はめでたく婚約の運びに。
でも、そこでひとつ、困ったことが。
中岡さんは、気持ちの悪い追っかけのストーカーとして知られている。
さっきも警備員さんが気づきそうになったわ。
いつか刺した犯人であることがバレても困るし、此処で頑張って容姿を戻すことにした。
さて、準備万端というわけで、今日、私に紹介してくれるつもりだった。
でも、急激なダイエットにより、中岡さんの体力はなくなっていた。
それで、今回の事件が起きたのよ」
犯人が突き飛ばしても、通常の状態だったら、よろめいて終わりだったでしょうにね、と晶生は言った。
「あと、私の水のせいですよね」
としゅんとして、村が言う。
まあ、これからは水浸しにしないよう気をつけて、と思った。
そのとき、あのスタジオの扉が開いた。
例のファラオのマスクを使う予定のクイズ番組だ。
リハーサルが終わったのか、何人か、わらわらと出て来た。
「あの中に犯人が居るのか」
そう呟く真田に、
「被害者が事件じゃないと言い張ってるから、犯人って居ないんだけどね」
と言っているうちに、スタジオから出てきた人たちは、それぞれが休憩しに何処かへ行ってしまった。
それをぼんやり見送っていると、人気がなくなったところで、真田が、
「また言わねえのかよっ」
とキレる。
顔を近づけ、言ってきた。
「お前、林田さんじゃないが、今度こそ、死体を持ってくるぞっ」
だから、何処から? と思っていると、ふいに額になにか冷たいものが触れた。
沐生の手だった。
額を押して、真田から引き離す。
後ろに居た日向も、おおっと、とよろけた。
堺が呆れたように言う。
「そういう邪魔して、権利を主張するなら、なにか言えばいいのに」
ん? と沐生が堺を見たが、堺はもう素知らぬ顔をしていた。
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