呪われた男 III

 

「なに仕切ってんの、姫」

とよく知った声に言われて晶生は振り向く。


「ああ、堺さん。

 ……と」


 何故、真田、と思う。


 真田はまるで新人タレントのように、堺に連れられてきていた。


「仕切ってないです。

 ところで、姫ってなんですか?」


「いや、今、この刑事さんが言ってたの」

 そういきなり堺に指差され、林田が逃げ腰になる。


「イメージ通りだなあと思って」

と言う堺の次の言葉は、沐生も一緒に言っていた。


「なにも出来なさそうなところが」


 殴ろうかな、この二人。

 こういうときだけ、息が合ってるんだから、と思う。


「で、姫。

 犯人わかったの?」

と林田ではなく、堺が訊いてきた。


 犯人ねえ……と晶生は呟く。


「ちょっと、あんた、また、うやむやにする気じゃないでしょうね」

と言われ、いやいや、うやむやにしたところで、堺さんには関係ないことでしょうに、と思った。


 そのとき、

「晶生ー」

と声がした。


 野次馬の向こうから、坂本日向が手を振っていた。

 人を押しのけてこちらに来ながら、言ってくる。


「樹里の彼氏が呪われてミイラになったってほんと?」


「うん。

 なんかいろいろ混ざってて違う」


 日向は既に、原型を留めていない現場を覗き込みながら、どんな想像力を働かせているのか、うわ〜と言った。


 その横で、林田が呟く。


「なんだろう、この事件。

 ファラオの呪い?」


「そんなわけないじゃないですか」

 林田の言葉を、あっさり晶生は却下する。


「パン一個にビール一杯」

「え?」


「本日のメニューみたいですね。

 ピラミッドを作っていた作業員の食事とかですかね?


 そんな感じのことばっかり書いてありましたよ、あの石板。

 文章自体は、特に何も呪ってないですけど。


 しかも、さっき見たでしょう?

 あのなんの力もなさそうな美術さんが作ったものですよ、あれ」


「晶生、ヒエログリフが読めるの?」

と堺が訊いてくる。


「さっきから、その辺をウロウロしてる大学教授が得意げに教えてくれましたよ」


「え? 何処?」

とみんながキョロキョロするので、


「いや、生きてはないですけど」

と言うと、林田が、


「……晶生ちゃん、テストのときとか、答え教えてくれる先生の霊とか出ないの?」

と言ってきた。


「いやあ、先生ですからねえ。

 そういうカンニングまがいのことは」


 なにを言ってるんだ、こいつら、という顔で沐生が見ていた。


「でも、そうか。

 本日のメニューだったのか。

 でも、黄金のマスクに石板にミイラと来たら、ファラオの呪いかと思うよね」

と言う林田に、


「中岡さんが今呪われそうなのは、樹里のファンくらいですよ」

と言うと、彼は、


「やっぱ、そうなのかな?

 じゃあ、ファンの呪い?」

と言ってきた。


 どうしても、呪いにしたいらしい。


 だが、呪いで人は殺せない。

 それは自分にはよくわかっている、と晶生は思った。


 以前、呪ったことがあるからだ。

 沐生が言った。


「まあ、問題は、あの石板に力があるかどうかじゃなくて、あれをあそこに置いたってことだけどな」


「そうね。

 でもまあ、中岡さんを呪っている、と示したかったのか、呪われているように見せたかったのかはわからないけど」


「え? ちょっと待って。

 そのふたつはどう違うの?」

と日向が言ってくる。


「違うでしょう」

「え、なんで?」


 ふたりの会話に、沐生がひとつ、溜息をついたようだった。



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