神社 II


 今日こそ、見よう。

 晶生は撮りだめていたドラマを見ようと自分の部屋のDVDレコーダーの電源を入れた。


 よし、これからっ、と覚悟を決めたが、ものの二分も見ないうちに、テレビの主電源を切ってしまう。


 あの沐生がはにかむように画面で笑っていたからだ。


 誰っ?

 誰なの、こいつはっ。


 私の沐生じゃないっ。


 ……でも、可愛いっ。


 まだ、テレビと連動しているので、レコーダーの電源も落ちてしまっていた。


 這っていき、もう一度、テレビの電源を入れる。


 一緒にゆっくりレコーダーが立ち上がる。


 再生ボタンを押した瞬間に側にあったクッションを抱き締め、目を閉じていた。


 真田などが見ていたら、だったら見るな、というところだろう。


 いや、見たいのだ。

 実生活で、こんな沐生の顔が見られることはないから。


「いやーっ。

 やっぱ、無理ーっ」


 自分がテレビに出て、似合わぬ役をやっているのと同じくらいの恥ずかしさがあり、晶生は今度はリモコンに手を伸ばそうとした。


 だが、押すより先に、電源が落ちる。


 おや? と振り返ると、リモコンを手にした沐生が座っていた。


 うわっ、と飛び退く。


「いっ、いつから居たのっ?」


「……さっきから」


 じゃあ、テレビつけたり切ったりしながら、のたうち回っていた私、莫迦みたいじゃんっ、と沐生の手からリモコンを取り返し、

「……お帰り」

と罰悪く言った。


「お母さんたちは?」


「お父さんはまだ帰ってない。

 お母さんは、佐々木のおばさんとこでまた喋ってんじゃない?」

と言うと、そうか、と言う。


 沐生は、そのまま、自室に行こうとしたのか、立ち上がる。


「ああ、そうだ、沐生。

 明日、暇?」


 まだ映画の撮影も終わっていない。

 暇なわけないか、と思いながら、そう訊くと、沐生は戸口で振り返り、

「なんでだ?」

と問う。


「いや、お爺ちゃんが、真田くんを呼んだの」

「なんでだ?」


「真田くん、ほら、弓道結構すごいじゃない。

 それ、試合のとき、お爺ちゃん見てたみたいで。


 あの子、晶生の友達なら、一度遊びに来いって言えって」


 ああ、と興味あるのかないのかわからない相槌を沐生は打つ。


「沐生も来る?

 明日、三時くらいからなんだけど」


「……暇があったらな」

と言い、沐生は引き上げていく。


 障子の向こうに映る沐生の影に、今日はあの水死体の男は張り付いてはいない。


 晶生は、ほっとしながら、また、テレビを振り返る。


 このまま見ないのなら、いっそ消しちゃおうかな、と思いながら。





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