ファラオの呪い

神社 I



 晶生の爺さんに神社に呼ばれたときは、ぜひ、カメラを持って行こう。

 親父の一眼レフを、と真田は思っていた。


 だが、父親は大事なカメラをそう簡単には貸せない、と言い、母親までもが、

「あれ、高いのに。

 あんたに貸したら、壊しそうだから駄目」

と言い出した。


「なんでだよ〜」

と夕食後、揉めていると、会社から帰ってきた姉の未彩みさが真田の目の前のお菓子をつまみながら、


「スマホで撮ればいいじゃん」

と余計なことを言ってくる。


「スマホの画質じゃ駄目なんだよっ」

と文句を言うと、


「そんな立派なカメラでなに撮ろうってのよ。

 世界遺産?」

とかよくわからないことを訊いてきた。


 いっそ、そう言って誤魔化したかった。


 だが、晶生の爺さんの神社が世界遺産のはずはない。

 しかし、俺にとっては、世界遺産級の代物なのだが。


 晶生の巫女姿は。


 いや、妄想の中でしか見たことはまだないのだが。


「……好きな子でも撮るとか?」

と父親がにんまりと笑う。


「違……っ」


「だったら、ぼんやり映るカメラの方がいいわよ。

 女ははっきり映るカメラは嫌いよ」


「姉ちゃんと一緒にするなよ」

と言って、なにっ? と蹴られたが、晶生は元モデルだ。


 別にどんな性能のいいカメラでも構わないだろう。


「は、長谷川沐生が来るかもしれないんだよっ」


 思わず、そう言ってしまう。

 すると、思ったより、母と姉が食いついてきてしまった。


「長谷川沐生っ?」

「何処にっ?」


 今、そこに沐生が居るかのような勢いで責め立てられる。


「いや……かも、だから」


「そういえば、前、商店街で撮影してたって」

「ああ、あのなんとかいうアイドルが刺されたとき」

と母親が言った。


 水沢樹里が新作映画の撮影中に刺されたことはまだ記憶に新しい。

 芸能活動は思ったより早くに再開出来たようだが。


 まあ、映画の撮影が止まってしまったので、無理して出てきたのかもしれないな、と思った。


 ……そういえば、あの映画、キスシーンとかって、ないのだろうか。


 昔の知り合い同士とか、友達同士でそういうのって、役者の人って照れないのかな、と思う。


 っていうか、晶生はいつも沐生のラブシーンをテレビや映画で見せられてるわけだな。


 なかなかしんどそうだ、と思う。


 まあ、見ていないのかもしれないが。


 それ以前に、兄妹っていう方がきつそうだが。


 あの二人、どうなっているのだろう。

 今、つきあっている風にはなかったが。


 明らかにお互い、意識している感じがある。


 長谷川沐生が恋敵とか遠慮したいんだが。


 他にもいろいろ晶生に訊きたいことはあったのだが、訊いては悪い気もするし、二人だけで会うことは滅多にないし、なにも訊けないままだった。


 そういえば、俺の告白も、さらっと流されたままだしな、と気がついた。


「あ、そうだ。

 そういえば、水沢樹里、婚約かって、週刊誌の広告に出てたわよ」


 未彩の言葉に、婚約か、でしょ? と母親は週刊誌のネタはあまり信じていないように眉をひそめる。


「婚約? 本当に?」


 つい、そう訊き返すと、

「あら、あんた、水沢樹里なんて好きだった?」

と未彩が訊いてくる。


「あんた、ほら、あの莫迦っぽい女とかが好きじゃなかったっけ?

 坂本日向とかいうグラビアアイドルとか」


「坂本日向は……」

 全然莫迦っぽくないよ、と言いかけて、踏みとどまる。


 何処で会ったのかとか、また追求されそうだったからだ。


「水沢樹里の相手、中学高校で先輩だった人らしいわよ。

 爽やかなイケメンだって書いてあった」


 ……爽やかなイケメン?


 晶生にあのときの顛末はざっくりとは聞いていたが。


 樹里は、自分を刺した気持ちの悪い追っかけが好きだったんじゃないのか。

 そのイケメン先輩は何処から湧いてきた。


 やっぱり、週刊誌のネタなんて適当だな、と思う。


 まあ、樹里の相手だったら、そんな感じ、という想像に基づくネタかもしれないが。


「そういえば、あのときの犯人、捕まらないままね。

 怖いわねえ」

と母親が言う。


「それであれなんじゃない?

 君をもう危険な目には遭わせないよ、とか言って、その先輩が」


 きゃーっ、と女二人盛り上がっているが、いや……あの女が誰より危険そうだったが、と思っていた。


 とりあえず、長谷川沐生のお陰で、カメラは借りられた。


 女二人が父親を押し切ってくれたからだ。


 父親には、いっそ、好きな子を撮ると言った方が貸してくれそうな雰囲気だったが。


「必ず、沐生を撮ってくるのよ。

 顔と全身と、笑ったところと」


 なんのオーディションの履歴書に必要なんだという要求を姉はしてくる。


 あの男、カメラが回ってないところでは、笑うどころが、表情筋のひとつも動かさない感じなんだが。


 この間のドラマみたいに、好青年風にはにかんで笑うなんて、実生活ではなさそうだ。


 そう思いながらも、ありがたく、そのカメラを借りた。


「ねえ、沐生が現れたら、通報してよ」


 通報ってなんだ、と姉の言葉に苦笑しながらも、やっぱり返せと言われないうちに、カメラを手にそそくさと部屋へと戻る。


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