面会 II

 

 堺は車で真田も送ってくれることになった。


 意外にも車は男前な感じの四駆だ。


 晶生が真田と一緒に後部座席に乗ろうとすると、

「なにやってんのよ、あんたは前よ。

 この子が降りたあと、あんたがひとりで後ろに乗ってたら、私、あんたの運転手みたいじゃないの」

と言ってくる。


「あんたがタレントなら仕方ないけどさ」


「じゃあ、晶生も役者になるとか」

と後部座席にひとりは落ちつかないらしい真田が言ってくる。


「晶生は役者にはしないわよ。

 ……あんたの演技は凄いけどね。


 私はあんたが役者になるのは、オススメしないわ、ほんとのところ」

と堺は真面目な顔で言ってくる。


 いいから、乗りなさいよ、と言われ、晶生は助手席に乗った。


 シートベルトを締めていると、堺に真田が後ろから訊いていた。


「晶生も芝居してたことあるんですか?」


「沐生とちょっと出てたことあるわよね。

 晶生、沐生がなんで役者になろうと思ったか、訊いたことある?」


 いえ、と言うと、笑う。


「意外とお互いのことを突っ込んで訊かないわよね、あんたたちって。

 どんなことでも」

と意味ありげに堺は言った。


「役者ってのは、みんなの前で自分の引き出しを開けてみせる職業よ。

 あんたには向かないわ、晶生」


 堺の助手席で脚を組み、晶生は堺とその向こうに流れる夜の街を見ていた。


 



「じゃあね、ボク。

 遅くなって悪かったわね。


 親御さんになにか言われたら、私に連絡してちょうだい。

 言い訳してあげるから」


 家に着き、降りた真田に堺が言っていた。


「大丈夫です。

 ありがとうございました」

と頭を下げ、見送る真田をちらとバックミラーで見たあと、堺は、


「可愛い子ね」

と言う。


「堺さん、好み?」


「私、ゲイじゃないって言ってるでしょ。

 沐生にも襲いかからないじゃない」


 いや、襲いかからないから、ゲイじゃないとも言えないんでは……。


「礼儀正しいいい子ね。

 手は早いけど」


「手?」


「あんたの手を握って来たじゃないの。

 あんた、男に触られるの、嫌なのにね」


「あれ? 居たんですか?

 あのときから」


「あんた、目立つから。

 人ごみの中でも、すぐに目に入ったわ」


 あんたのとこには行かずに、知らん顔してたけど、と言う。


 晶生は窓で頬杖をつき、目を閉じる。


「樹里に会って、なにを訊くの?」

と堺が訊いてきた。


「なんで、沐生に似た男に襲われたなんて嘘ついたのか訊くんですよ」

「嘘だって思ってるの?」


「だって、沐生は私たちと居ましたからね」


「まあ、そうだけど。

 ねえ、あのホテルの詐欺師とやらは、あんたになに言ってたの?」


「私には犯人がわかるはずだと言ってましたよ。

 お前はこっち側の人間だから、と」


 こっち側ってなに、彼岸? と堺は眉をひそめる。


「なんでですか。

『犯罪者』ってことでしょ」

と晶生は笑った。


 いきなり車が止まる。


「なんなんですか、堺さん」

と見ると、


「……着いたからよ」

と言う。


 おや、そうですか、と病院を振り仰ぎ、晶生は降りようとした。

 その手を掴まれる。


「やっぱり私も行くから、駐車場まで付き合って」

と言って手を離した堺はまた車を出した。


 閉めてませんよ、まだっ、と車から落ちかけながら、晶生は叫んだ。


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