面会 I
「やっぱり、水沢樹里と会いたいかな」
と晶生は階段で溜息をついた。
「なんで、犯人が沐生と似てたって言ったのか気になるし」
「ほんとに沐生と似た体格の男が居たのかもしれないぞ。
そんな男、その辺には居ないだろうが」
と真田が口を挟んでくる。
「でも、まあ、本当に沐生が犯人なのかもしれないけどな」
と言う真田を、ちらと見たら、
「……睨むな」
と言われた。
いや、別に睨んだ覚えはない。
「ともかく、水沢樹里に……」
と言いかけたところで、いきなり、後ろから首に腕が回ってきた。
くえっ、とニワトリが絞められたような声を上げてしまう。
よろけて、足が階段から外れた。
「おっ、落ちるじゃないですかっ」
と後ろの男に文句を言った。
自分を支えている、いや、絞めている腕を掴み、振り返る。
「もう~っ、堺さんっ」
「なによ。
心配して迎えに来てあげたんじゃない」
と堺が言う。
いや、貴方、幾ら女言葉使っても、この腕力と身体は男ですからね、と身体を支えるのに、堺の胸に背中を押しつけられている晶生は思った。
姿は見えず、触れた腕と胸の感覚だけだと完全に男だった。
この人、意外に、沐生より鍛えてるかも、と思う。
そんなことを言ったら、沐生が怒りそうだが。
「で? なんか進展したの?」
と訊いてくる堺に、
「今の短時間でなにをどうやって」
と晶生は文句を言う。
「とりあえず、水沢樹里に会いたいんですけど」
と言うと、しょうがないわね、と堺は溜息をついた。
「まあ、話は出来るみたいだし。
あんたが会いたいって言えば、会うかもね」
と言うので、不思議に思っていると、こちらの顔を見た堺が笑った。
「ああ、そう。
なるほどね」
とよくわからない相槌を打つ。
「どうする? そこのボク。
帰るのなら送ってって、あげるわよ。
貴方は樹里の病室には入れないだろうから」
と真田に言っていた。
……ボクって、と思ったが。
真田も相手が男なら、怒ったのだろうが、微妙な人なので、黙っていた。
まあ、女の病室に連れてくのもな、と思い、真田は帰らせることにした。
やれやれ、とりあえずは帰れそうだけど、沐生はまだ戻れないし、なんの解決にもなってないな、と思っていると、遠藤が下から言ってきた。
「また明日な、晶生」
そうして、小さく手を挙げ、
「明日も来るんだろう?」
と確認するように笑って言う。
「事件次第ですよ」
と答えていると、堺が、
「ねえ、晶生。
そこになにが居るの?」
と訊いてきた。
「なんか男前の詐欺師みたいな人が居ますよ」
と言うと、遠藤はちょっと嬉しそうだった。
何処がツボだったのだろう。
詐欺師と言ったのに。
男前のところか?
この男だったら、生前は言われ慣れてただろうにな、と思いながら、
「堺さんて、ほんとに霊見えないんですか」
と訊くと、
「見えないわよ。
あんたや沐生じゃあるまいし」
と言ってくる。
「でも、堺さん、いつも、うまいこと霊を避けて通ってるんですよ」
「私、勘がいいのよ。
嫌な気配っていうかね。
沐生やあんたと居ると、スタジオとかの霊がすうっと引いてく感じがするわ。
怖いからかしらね」
と余計な一言を付け加える。
「そういえば、オカマの人って良く見えるって言いますよね」
と真田がうっかり言ってしまい、睨まれる。
「誰がオカマよ。
私は言葉遣いがこうなだけよ、ねえ、晶生」
いや、ねえ、晶生とか言われても……。
「あんたはよくわかってるでしょ」
と言われ、
「……わかりませんてば。
もう行きましょうよ、堺さん」
と話を打ち切るように言い、振り返りもせずに、さっさと階段を下りていった。
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