こちら側の人間……
「こんにちは」
階段を下り切らないうちに、晶生は上から見下ろすような体勢で、男に笑いかける。
「初めまして。
私、長谷川沐生の妹の、晶生です」
こいつ、自分の見せ方、よく知ってるな、と思いながら、遠藤は見ていた。
こいつの方が役者向きなんじゃ? と思う。
晶生は笑顔でいながら、何処か人を見下すように見ているところがある。
相手に悪意があるというのではなく、生まれついた女王様体質なのだ。
高い位置から見下すように見下ろしながら、ちょっと親しげに微笑みかける。
それだけで、芸能人も見慣れているであろう吉田という男は、舞い上がってしまっていた。
とどめに階段下の暗がりにつれて行き、二人だけで話す感じを強調させる。
あとは晶生のなすがままだな。
吉田は晶生のために、自分が知っている限りのことを思い出そうとするだろう。
「悪い女だなあ……」
ぼそりと呟いたが、隣の真田には自分の声は聞こえない。
お前も騙されるなよ、と思いながら彼を見上げる。
晶生が陰に入ってしまったので、話の内容は聞こえなくなった。
別に地縛霊ではないので、晶生の許まで行けなくもないのだが、いつものように、此処を動きたくなく、ぼんやり晶生が戻ってくるのを待っていた。
晶生に言わせれば、そういうのを地縛霊って言うんじゃないの? と言うところだろうが。
しばらくして、晶生が戻ってきた。
なにかしらの収穫はあったようだ。
「遠藤、ありがとう」
と女王様はねぎらってくれる。
いやいや、と小さく手を挙げた。
さっきまで手すりのところから、下の晶生を窺っていた真田が振り向き、誰と話してんだ、という顔をしていた。
「犯人はわかりそうかい?」
と言ったが、晶生は答えない。
まるでわからないから、というのがその理由ではなさそうだった。
「そうだな。
わかるさ、晶生。
お前になら。
お前はこちら側の人間だから」
そう言うと、晶生は黙ってこちらを見下ろしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます