聞き込み

「うーん。誰から訊こうかしらね」


 晶生は腕を組み、階段から下を見下ろす。


「あの男が居たかもしれないな」

 ふいにそんな声が足許からした。


 見ると、膝で頬杖をついてた遠藤もぼんやり下を眺めていた。


「そこの小さい男だよ」

とせっせとダンボールに詰められた小道具を運んでいる男を指差す。


「この階段から、そっちの北の入り口までをウロウロしてたのは、あの男だな。

 刺された女が此処に入ってきたときに」


「便利ね」

と遠藤を見下ろすと、


「なに、たまたま思い出しただけさ」

と言う。


 それ以上、語る気はないようだった。


「真田」

と振り返ると、


「お前、ひとりが行け。

 その方が喋る」

と言ってくる。


「……了解、ボス」

と言って、晶生は真田を待たせ、ひとりが階段を下りていった。


「こんにちは」


 階段を下り切らないうちに、晶生は上から見下ろすような体勢で、男に笑いかける。


「あ、こ、こんにちは」

と赤くなった男は忙しげな足を止めた。


「初めまして。

 私、長谷川沐生の妹の、晶生です」


「えっ。

 沐生さんの妹さんだったんですかっ。


 いや、綺麗な子が見学に来てるから、堺さんが連れてきた新人さんかと……あ、いえ、すみませんっ。


 でも、そういえば、似てらっしゃいますね」

と男は一気に喋る。


 いや……似てないよ、と笑顔の下で苦笑いした。


 まあ、嘘はついてはいないが。


「少し、お話お伺いしたいんですが、よろしいですか?」


 あちらで、と階段下の暗い方に連れていった。


 吉田と名乗ったそのスタッフは、遠藤の話通り、此処に入ってくる樹里を見ていたようだった。


「樹里さん、ひとりでいらっしゃいましたよ。

 マネージャーの後藤さんはいらっしゃいませんでした。


 ケーキの箱を持ってらして、挨拶をしたら、にこやかに返して来られましたけど」


「けど?」


「いや、実は、樹里さんが此処に入って来られる前から見てたんです。


 そこの北側の扉が搬入のために開いたままになってて。


 トラックの陰になってる辺りで、樹里さんが足を止めて、誰かと話してました」


 それが……と吉田は声を落とす。


 辺りを気にして言った。


「樹里さんの熱心なおっかけの人だったんですけど。

 ちょっとこう、小太りで、気持ちの悪い感じの。


 注意するよう、後藤さんから言われてたんですよね。

 樹里さんに近づけないようにって。


 樹里さん、ちょっと嫌な顔をして、なにか話してらっしゃいました。


 あ、まずい、と思ったんですが、助監督に呼ばれちゃって。

 後藤さんに、報告しようと思ったときには、もう樹里さん、こっち入ってきちゃってました。


 目を合わせたら、すぐ笑顔になって、挨拶してくれて、そのまま階段を上がって行かれたんですけど」


 そのあと、あんなことに、と吉田は眉をひそめる。


「そのあと、誰か二階に上がっていくのを見られましたか?」


「ええ。

 貴女と沐生さんが」


 そ、そうですよね……。


「あの、その話は警察には」


「はい。聞かれたのでしましたよ。

 あつ、あの、でも、僕らもずっとこの辺りに居るわけじゃないので、貴女がた以外の人も上がってったかも、とは言っておきました」


「そうですか。

 ありがとうございます」


 あ、そうだ、と晶生は言った。


「貴女が水沢樹里を見たとき、なにか変わったことはありませんでしたか?」


「いやー、特になかったですねえ。

 白いケーキの箱を大事そうに抱えてらっしゃいましたが」


「大事そうにですか。

 それって、その外に居たファンの人にもらったとか?」


「いや〜、どうでしょう。

 表側には、おっかけや撮影に気がついた野次馬の人たちも居たみたいですけどね。


 こっち側までは入ってこれないから、そっちでもらってたら、わからないです。


 あの太った人は、ずかずか入ってきちゃったみたいですけど」

と困ったように眉をひそめる。


 そういうマナーのなっていないおっかけに困っているようだった。


「うーん。

 少なくとも、あの人からもらったわけじゃないでしょうね。


 だったら、あんな大事そうにしないと思うし。

 あの人と話し出したときには、もう持ってたような気がしますよ」


「……そうですか。

 ありがとうございました」


 深々と礼をすると、

「沐生さん、早く帰ってこられるといいですね」

と言ってくる。


「沐生さんが人を刺したりとかないって、スタッフはみんな思ってますよ」


 ありがとうございます、と言おうとしたとき、吉田は笑って言った。


「だって、沐生さん、そんなに人に関心ないですもん」


 も、申し訳ございません、と今こそ、深く頭を下げたくなった。



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