沐生の取り調べ II


「なあ、須藤沐生さんよ。

 あんたらが言う通り、水沢樹里の楽屋の前に、あんたら二人が居るときに、彼女が刺されたっていうのなら、犯人は、あんたか、須藤晶生しか居ないことになっちまうんだが」


 狭い取調室で、パイプ椅子にどっかりと腰を下ろしている堀田が言った。


「っていうかな。

 晶生が犯人とは考えにくい。


 最初にドアを開けて覗き込んだのは、あんただろ?


 あんたがドアを開け、入り口付近に立たせておいた水沢樹里を刺した。

 それくらいしか可能性はない気がするんだよ。


 まあ、それでも、樹里の証言とは矛盾するがな。


 樹里はフルフェイスのヘルメットを被ったあんたに似た男が自分を刺したと言っている。


 だが、自分たちが居たときに、樹里が刺されたような感じで倒れたという、あんたと須藤晶生の証言が正しいのなら、そんな発言が入る余地はない。


 あんたらが嘘をついているとも考えられるが、そんな自分たちに不利になるような嘘をつく理由なんぞないだろうしな」


 俺たちの発言が嘘ではないのなら、嘘をついてるのは、樹里だ。


 それはこの男もわかっているだろう。


 そう思う沐生の前で、堀田は、ふう、と溜息をつく。


「水沢樹里はあんたをかばいたいのか、疑わせたいのか。


 フルフェイスのヘルメットを被っていた、とあんたであるとの明言は避けながら、体格はあんたに似ていたようだと言っている。


 だが、あんたに似た体格の男なんて、その辺に居るわけないことくらい、樹里にもわかっているだろうしな」


「そうですよ。

 樹里さんの発言がおかしいです」

と口を挟んできたのは、テーブルの横に立っていた林田だった。


「でも、堀田さんの主張もおかしいです。


 沐生さんが、一体、どんな理由をつけて、入り口付近に樹里さんを立たせてたって言うんですか?」


 林田を見上げた堀田が、

「……何故、お前が反論してくる」

と言う。


 渋い顔をしたあとで、

「なにかこう、ドッキリ的に誰かを脅かそうと樹里に言って立たせてたとか?」

と堀田が言った。


「陳腐ですね。

 ……ああっ、すみませんっ」


 堀田に睨まれ、林田は慌てて謝る。


 どうも思ったことがすべて口から出てしまうタイプのようだ、と沐生は思った。


 堀田は使えない相棒にか、喋らない沐生に対してか、椅子に背を預けると、深い溜息をつく。


「まあ、わしも、ほんとに、あんたが犯人だと思ってるわけじゃあない」


「え? そうなんですか?」

とのたまったのも、また林田だった。


 だから、口を挟むなっ、という目で堀田が見上げる。

 が、あまり懲りている風にはなかった。


「わしがあんたに訊きたいのは、どちらかと言えば、九年前の真相だからな」

と堀田は上目遣いに沐生を見る。


「須藤沐生、煙草は吸うか?」


 吸える年になったんだろう、と言われた。


「……いえ」


「そうか。つまらん奴だな」


 ぼそりと堀田はそう言った。




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