真田にとっての大事件

「ちょっと気になることがあってな」

と言うと、


「事件のこと?」

と晶生は訊いてくる。


 んなわけないだろう。

 今のこの状況で、と真田は思っていた。


 事件なんぞより、お前と長谷川沐生の関係が気になってしょうがないわ。


 こいつ、長谷川沐生と付き合ってたのか?


 今の堺さんとの会話を聞いている限りでは、過去形だったが。


 別れてるにしても、沐生の次とかハードル高すぎだろうよ。


 そもそも、兄妹で一緒に住んでて付き合ってたとか。


 もしかして、別れたから、出て行ったのかな。

 訊きたいが、訊けない。


「なあに? ぼんやりしちゃって」

といつもロクでもないことを言い出す唇で、今は可愛らしく晶生は笑う。


「あ、わかった。

 堺さんに見惚れてたとか」


「なんでだよ。

 だって、あの人、男だろ?

 遠目に見てたらよくわかんなかったけど。

 男の匂いがするよ、なんとなく」


「そうなの?

 私はよくわかんないわ。


 でもさ、堺さんに言い寄る女性タレントとか居てさ。

 それでめんどくさいから、ああいう男か女かわかんない風になったって説もあるのよね」


 説ってなんだ。

 歴史ミステリーとか宇宙人の謎とかじゃないんだから、今、本人に訊け、と思った。


「いろんな伝説のある人だな」

とだけ返す。


 長谷川沐生のマネージャーだから違和感がないが、他のタレントのだったら、あの人の方が芸能人に見えそうだ、と思った。


 ルックスに加えて、華やかなオーラがある。


 ちょっと口調を変えるだけで、普通に王子様みたいに見えそうだ。


「よし。

 じゃあ、聞き込みに行くわよ、真田くん」


 そう晶生に言われたが、まだ、沐生のことが引っかかり、……ああ、と気のない返事を返してしまい、睨まれた。


 ああ、こんなところ、来るんじゃなかった。


 真実はいつも優しくない。

 いっそ、知らない方がよかった。


 もしかしたら、この事件の真相も――。



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