犯人捜し
「よし、仕方ない。
犯人を捜すか」
と晶生が両の腰に手をやり言うと、
「犯人って、仕方なしに捜すものだったのか」
と真田が言ってくる。
彼を振り向き言った。
「あんたも帰さないわよ。
私を手伝いなさい。
あんたのせいで、こんなところまで来る羽目になったんだから」
「帰さないわよって台詞はもうちょっと色っぽい状況で言って欲しかったんだが」
と言っている真田を無視して、遠藤を見る。
こいつが一番知ってそうだけど、しゃべらないからなあ、と思っていた。
「とりあえず、水沢樹里のマネージャーに話が訊きたいんだけど」
と呟くと、後ろから声がした。
「樹里について病院に行ってるに決まってるでしょ」
うわ、びっくりした、といきなり現れた堺を振り向く。
「今、どっから来ました?」
「あっちの階段」
と堺は南の階段を指差す。
「此処、何処からでも上がり放題ですよね」
「そうね。
でも、その方がいいんじゃない?
沐生とあんたが犯人である可能性が薄らぐから」
と言う堺に、
「……なんで私を加えますか」
と言うと、
「あんたにも動機があるからよ、晶生」
と言い出す。
「あのー、堺さんがぶち上げる沐生のスキャンダルをいちいち本気にして、殺してた歩いてたら、私はちょっとした殺人鬼になってますからね」
「あら、おめでたい。
週刊誌に載ってるのが、全部私がやった話題作りだと思ってんの?」
「ほんとでもほんとじゃなくても、私には今更、関係のないことですよ。
それから、私たちの証言通り、水沢樹里が刺された直後だったのだとしたら、三つの階段から出入りできるとしても、あまり意味はないです。
だって、私たちが楽屋の出入り口を塞いでいて、窓には鍵がかかってましたから」
「他ならぬあんたたちが、他の人間が犯人という可能性を潰しているわけね。
じゃあ、あんたたちが誰か別の人間を見たって言えば終わりでしょう?」
堺さん、と眉をひそめると、
「あら、なによ、晶生。
あんたらしくもない、綺麗事を言おうっての?」
と言ってくる。
「いや、嘘で捜査を撹乱すると、真犯人が捕まりにくくなるからですよ」
そう、と言ったあとで、堺は、
「あんたも沐生も犯人じゃないのなら、犯人はやっぱり窓から逃げたんじゃない? 二階だし」
と言ってくる。
「窓から?」
「犯人は窓から逃げた。
樹里は犯人が戻ってくることを恐れて、窓に鍵をかけた」
うーん、と晶生は腕を組んで唸る。
「でもそれなら、窓辺りで力尽きて、倒れてそうな気がするんですが。
樹里は戸口に居たし、私たちはそんな物音聞いてません」
「聞いたって言えば?」
あっけらかん、と堺は言う。
「堺さん……」
と文句を言うと、堺は晶生の胸許にかかる髪に手を触れ、
「だって、私も社長に怒られちゃってさ。
そうよ。
樹里と沐生はなんにも関係ないわよ。
社長も乗り気だったくせに、お前が、余計なスキャンダルで売り込もうとするからだって言われちゃって」
と言いながら、晶生の髪を指にくるくると巻きつける。
「お願いよ、晶生ちゃん。
沐生の無実を証明して」
「いや、それは警察に……」
と言いかけた晶生の髪を、堺は強くおのれに向かって引いた。
よろけた晶生は堺の胸に額をぶつける。
堺は晶生の耳許にその形のいい唇を近づけ、囁いた。
「……貴女になら、できるでしょ」
すぐに手を離した堺は、
「じゃあ、私、仕事が立て込んでるから、一度、事務所に帰るわ。
帰りは電話して。
二人とも送ってあげるから」
と言って、手を振る。
真ん中の階段をうまく遠藤を踏まずに下りていく堺を見送りながら、……困った人だ、と溜息をついた。
振り返ると、真田が渋い顔をしていた。
「真田。
あんたの意見を聞かせてよ。
あんたも結構ミステリーとか借りてるじゃない」
と言うと、
「なんで知ってんだ?」
と言う。
「いや、よく私が図書室で借りる前にあんたが借りてて名前があるから」
「そんなことか。
いや、すまん。
あんまり話聞いてなかった」
「は?」
「ちょっと気になることがあってな」
事件のこと? と言うと、んなわけないだろ、と素っ気なく言われた。
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