遠藤という男

 


 まだ日向たちは二階で話をしていた。


 晶生はそっと階段を下りる。


「遠藤」

と下に居る男を呼んだ。


 振り返った彼は、

「呼び捨てかい?」

と言う。


 晶生が彼を見下ろし、

「ちょっと引っかかることがあるから。

 上で人が殺されると言ったときも、今も。


 貴方なんだか楽しそうなんだけど」

と言うと、


「楽しいよ」

と遠藤は素直に認めた。


「此処も昔は人がたくさん居て。

 危ない取引もたくさんあって」


 やっぱりそういう場所だったのか……。


「実に活気のあるホテルだったんだけどね。

 最近の此処はやる気のない霊ばかりで退屈してたんだよ。


 ほら、あの、這い続ける霊とかね。

 とっくの昔に死んでるのにね」

と上の霊を振り返り言う。


 いや、そりゃ、貴方もよ、と思っていた。


「遠藤。

 本当は、私たちの前に此処を上がってった人を見たんじゃないの?」


「ほう。どうして?」


「その人が切羽詰まった顔で、例えば、ナイフを持って上がっていったから、これから人が殺されるって言ったんじゃないの?」


「さて、どうだろうね。

 どのみち、霊の証言は有効ではないよ、須藤晶生。


 君が、兄の沐生のアリバイを証言しても、なんの役にも立たないのと同じにね」


 やはりこの男、一筋縄ではいかないな、と腕を組み、遠藤を見下ろしていると、

「あれっ? 今、舌打ちしなかった?

 よくないよ、女の子が。


 それもそんな綺麗な顔で」

と言ってくる。


 いや、貴方のせいでしょうが、と思いながら、下を見た。


 この位置からでも、ロビーが一望できるな、と思い、眺める。




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