刑事 堀田
「あんたに須藤沐生のアリバイは証明できないって言ってるんだよ」
え、須藤? と日向が振り返る。
真田もこちらを見た。
堺が舌打ちするのが見えた。
「警察舐めちゃいかんよ、お嬢ちゃん」
だが、舐めてはいかんのは、このおじさんだけのようだ、と晶生は思った。
林田の方は、よくわかっていないようで、え? え? と言いながら、自分と沐生を見比べている。
やっぱりか、と晶生は溜息をついて言った。
「やはり、あのときの刑事さんでしたか」
「あんたらに取っては、九年ってのは、長い年月だろうし、顔も変わるだろうが。
わしらにとっては、九年も二十年も変わらないんでね」
ついこの間のことのようだよ、と堀田は目を閉じる。
じゃあ、その変わった顔がよくわかったな、と思った。
九年、それも子供がちょうど大人になる年頃だ。
私はあまり変わっていないが、沐生は変わった、と斜め後ろに居る男を見る。
しかし、何故、私が全面に出て、あんたが引いている。
今、あんたのことで揉めてんだがっ、と思ったが、沐生は何故か床を見ている。
そこを這っている霊が居るからだ。
背中を撃ち抜かれているらしい。
それは明らかに死んでるから、沐生っ、と思う。
それにしても、遠藤といい、この男といい、刺されたり、撃たれたり、物騒なホテルだな〜と思っていた。
沐生と晶生の視線の先をちらと見た堀田は、
「まあ、直前まで、長谷川沐生が下に居たというのは本当のようだから、もうちょっと調べてみますよ」
行くぞ、林田、と言うと、まだよくわかっていない林田を振り返ることなく、堀田は階段を下りていった。
ああ、遠藤さん踏んでます、と思いながら、それを見送った。
「晶生」
と不安そうな日向が呼びかけてくる。
「沐生の名前、本名だったはずよね?
なんで須藤になってるの?」
結婚したとか? と間抜けなことを訊いてくる。
「日向、沐生は今、うちに引き取られてるの」
え、ああ、と日向は困ったような顔で頷いた。
長谷川沐生の両親は九年前に失踪している。
それは日向も知っていたようだ。
そのあと、いろいろあって、沐生は晶生の家に引き取られた。
『すみません。電話を貸してください』
そう言い、突然、沐生が現れた。
あの雨の夕暮れを思い出す――。
晶生は日向に向かい、言った。
「でも、今は一緒には住んでないわ。
だから、沐生がスキャンダルを連発できるのよ」
「なるほど」
なにがなるほどだ、という顔を沐生がし、堺が、
「莫迦なこと言ってないで、なんとかしてよ、晶生ちゃん」
と言ってくる。
「なんで私ですか……?」
「いやー、晶生ちゃんだとなにかこう、なんとかしてくれそうだから」
とよくわからないことを言ってくる。
「ちょっと事務所に連絡入れてくるから、沐生を頼んだわよ」
いや、頼まれても、と美形のオカマに手を握られながら思う。
こんな面倒な男の世話を頼まれてもっ、と沐生を見上げる。
沐生は相変わらず、なにを考えているのか。
自分が犯人と疑われていることなど、どうでもいいように、楽屋の方を見ていた。
「あのさ。
水沢樹里は死んでないから、見てても出ては来ないわよ」
と言うと、真田たちが、ひっ、という顔をする。
ま、大抵の場合、殺された霊って、混乱してるから、なにも話してはくれないけどね、と思いながら、全然混乱していない遠藤を見下ろした。
なにを思っているのか、遠藤はこちらを見上げて、にんまり笑う。
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