トラブルメーカー



 刺された女、水沢樹里は運ばれていった。やはり、命は助かりそうだということだった。


 警官や鑑識の人間が右往左往するので、晶生は階段周辺に沐生と避難していた。

 遠藤は上を見て、にやにやしている。


 話を聞きたいところだったが、こう人が多くてはそうもいかない。


「死体見つけたの? あんたたち」

 さすがねっ、と腕を組んだ日向に言われる。


「さすがってなによ」

「だって、二人とも昔から、トラブルメーカーじゃないの。

 今でも、沐生がスタジオに居ると、よく照明が壊れるし」


「それはただの霊現象だ」

 ぼそりと沐生は言った。

 ただのってね、と日向は言う。


「三人とも仲がいいんですね」

と言う真田に、日向が、

「いや、この男、晶生が居るから昔のように喋るだけよ」


 本当に無口なんだから、と言う日向に晶生は、

「沐生は口は開かない方がイメージが崩れなくていいわよ」

と言った。


 いや、口をあまり開かない理由は違うんだが、と思いながら。


「で、誰が犯人なの?」

と言われ、沐生と晶生は無言でお互いを指差した。


「……あのさ、こんなときまで、張り合わないでくれる?」


「はいはい。

 その辺までにして、お話聞かせてもらいますよ」

 堀田という年配の刑事と、林田という若い刑事が現れた。


 沐生に任せると不安なので、晶生がざっと要約して喋ると、

「じゃあ、貴方がた二人でドアを開けようとしたときに、中からうめき声が聞こえたわけですね」

と言う。


 そういえば、最初に聞こえたの、うめき声じゃなかったな、と思う。


「いえ、確か、荒い息づかいがまず聞こえてきました」

と言うと沐生がこちらを見た。


「ところで、貴方がたはなんで、あの部屋を訪れたんですか。

 ああ、沐生さんの楽屋でしたっけ?」

 なにか、わざと沐生の楽屋というところを強調したようなと思いながら聞いていた。


「沐生さん、今回刺された水沢樹里さんとこの間、週刊誌に載られたばかりですね」


 沐生はなにも言わない。


 言う必要がないと思っているのかもしれないが、この状況で黙っていると、疑われている事実を肯定しているようなんだが、と晶生は思った。


 見兼ねた堺が割って入る。


「あの、あれは……宣伝のためのスキャンダルで、本当に沐生が水沢さんと付き合っているわけではないんです。


 現場で顔を合わせるだけなんですが、そんなに出番も被っていないので、むしろ、今回のキャストの中では、あまり口をきいてない部類に入る人なんですが」


 この人も沐生のマネージャーなんぞやってると神経すり減らすだろうな、と思いながら、堺の顔を見る。


「マネージャーの堺馨さかい かおるさんですね」

とメモを見ながら確認した林田は自分で言っておいて、二度見する。


「あの、えっと……」

となんと訊こうか困っているようだった。

 姿を見ても、名前を聞いても、男か女かわからないからだろう。


 日向がそれに気づいて、少し笑ったようだった。


「まあ、その辺のところは、ゆっくり聞かせてもらいますよ」

 場をまとめるように、堀田は言う。

 まさか、この面倒臭い男を警察にしょっぴくつもりだろうか。


 晶生は溜息をついて、

「あの」

と声をかけ、手を挙げる。


 刑事たちがこちらを見た。


「水沢さんが刺された直後に私たちが部屋に入ったようなんですが。


 沐生さんは、そこに行くまで私と一緒でしたし。

 その前は下に居たのをスタッフの方もみんな見ています」


 その言葉に、堺も助監督も祈るように聞きながら頷いていた。

 ヒロインが刺されたうえに、主役が容疑者では、お蔵入りになりかねない。


 だが、堀田は冷ややかな口調で言った。

「刺された直後かどうかわかるのは犯人だけだよ」


 そりゃまあ、そうか、と思う。

 すべては推測に過ぎない、と思っていると、


「それに、あんたの証言は効力ないよ。須藤晶生さん」

と彼は言った。


 その言い方に、晶生は堀田を見る。

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