飢えと孤独4





















 手から剣がこぼれ落ちた。

 気が付くと俺は、もう一人の俺に首根っこを掴まれ、宙に浮いていた。

 凄まじい力で締め付けられ、息ができなくなって、ヤツの手を必死に引き剥がそうとしていた。けれど、どんなに力を入れて掴んでも、ヤツは手を離そうとしない。獲物を嬉々として見つめている。


「捕まえた」


 ヤツはニヤリと笑った。

 牙が口元からはみ出して見えた。

 古代文字の刻まれた肌が、気持ち悪さを倍増させる。

 長い鎌は氷面に突き刺さり、そこから黒炎が立ち上っているのが見えた。


「私がお前でお前が私なのだとしたら、決着など付きようもないと。ならば再び、その意識体を私が取り込むしか方法がない。私の中で溶け、私の一部になって貰おう。最強になりさえすれば、誰も私を止められぬ。人間どもがどれだけ束になってかかろうと、だ」


 俺と同じだけ傷ついてるクセに、ヤツはやたらと余裕だった。

 苦しいのは俺だけか。

 クソッ。

 せめてもう少し弱らせてから。

 ヤツの左手が赤黒い光を帯びた。かと思うと、俺の腹めがけて思い切り突っ込んできた。拳が、身体を突き破った。違う。これは。意識体を、掴まれた。

 ダメだ。

 分離する。

 同化が解ける。

 竜化が逆再生で戻っていき、人間の肌が露出する。けれど、それは俺じゃない。このきめ細かな肌は、美桜の。

 俺の目線は徐々に美桜の身体から離れて、真っ黒なもう一人の俺の身体に吸い込まれ――――。











『キスから始めたらいい? ハグが先だった?』




 美桜の心の声が聞こえる。




『手を繋ぎたいとか、触って欲しいとか。そういうのって、どう表現すればよかった?』






『嫌われた? 大丈夫だった? もっと言葉を選ばないと』






『好きって、こういうこと? ずっと側に居たいって思うこと?』






『どうして冷たいの? 私のこと、嫌い?』


『嫌われるくらいなら、近づかない方が良い?』






『私の知らないところで何をしているの? 何をされたの?』


『目を覚ましてよ。こんなに、こんなに好きなのに。私の好きな人はどんどん離れて行ってしまう』




『私を一人にしないで』




『嫌いにならないで』






『素直って何』






『私は何?』






『役に立ちたい。側に居たい。同化なら合法的に凌と一緒にいられる。好きなの。とても好きなの。お願い、凌。離れないで。お願い……!』            





















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