飢えと孤独3
「辛くないの?」
傾いた日が空をオレンジ色に染めた頃、学校の屋上で話しかけてきたのは陣だ。
「何が?」
やはり俺は美桜になっていて、彼女は髪を掻き上げながら素知らぬフリをしてボソリと返す。
「わざと自分を痛めつけてるんだろう。そうやってツンツンして、自分に誰も寄りつかないようにして。君は一体、何がしたいの」
フェンスに寄りかかり、美桜は高い空を眺める。
心のもやもやを整理しながら、彼女はゆっくりと陣の問いに答える。
「わからない。心の開き方なんて、全然、わからない」
夕暮れの柔らかい風が、彼女の長い髪の毛をなびかせた。
顔に貼り付いた髪の毛を手ですいて、彼女は長いため息を吐く。
「私って、そんなに嫌な人間に見える?」
言うと、陣はプッと噴き出して、それから大きな声で笑った。
「何だ。
「ちょっと……! 失礼ね。真面目に聞いてよ。こっちは真剣なのよ」
「あぁ、ゴメンゴメン。意外だったから」
陣は咳払いして、どうにかこうにか体裁を整え、彼女に向き直った。
「別に、誰からどう思われようと構わないと思うけど? 他人の評価って、それほど必要?」
美桜は何も答えない。ただじっと、陣の顔ばかり見つめている。
「中には、どんなにいい人にだって悪意しか持たない人間が存在する。例えば誰かに親切したら、『それは誰かにいい人だと思われたいからだろ』なんて言ったり、綺麗に着飾っただけで『見た目に余程自信がある』だの『良い格好をして異性の気を引きたい』だの、支離滅裂なことを平気でいってくる人間が多く存在する。人間の思考ってのは単純で、周囲にも流されやすい。一人がそんなことを言い出したら、今まで思ってもいなかったような人たちが、同じ思考になってしまう。来澄凌との写真だって、その一環だろうね。誰かがイタズラで撮った。悪意を持った人間が、マイナスイメージを付けて拡散させる。それがどんどん広がって、それがスタンダードになってしまう。事の発端なんて、些細なことなんだと思うよ。鎮火させようとして炎上することもあるらしいから、僕は放置するけど。ストーキング? アレはマズいから、僕が正体突き止めてやめさせる。大体、目星は付いてるし」
「目星?」
「来澄凌のゲーセン仲間。とは言っても、社交辞令程度の付き合いらしいけど。彼が君に気に入られたことに激しく嫉妬したらしい。けど、まぁ、干渉者であるという可能性は低いかな。微塵も力が感じられない」
「そう」
「……いい加減、一人で抱え込むのを止めたら?」
美桜はふいに陣から目を逸らした。
「来澄凌が君の思っているような人なら、きっと相談に乗ってくれる。全部話して、君という人間をもっと知ってもらったらどうだろう。僕が見た限りでは、彼からは悪意の欠片は微塵も感じられない。澱んではいるけれど、それは彼も人間不信的なところがあるからであって、それさえなくなれば、きっと良い相棒になれる。君が初めて“この世界”で、近づきたい、一緒に戦いたいと思った相手なんだろう。もっと素直になったら?」
・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・
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