飢えと孤独2





















「何だその目は」


 唐突に画面が切り替わる。

 背の高い男が俺を見下している。


「私に逆らうのか。何者かもわからないお前が」


 その中年の男には見覚えがあった。確か、前に見たときはもう少し若くて。


「逆らう? 伯父さんはどういう状況を『逆らう』って言ってるの?」


 自分の口から漏れた声がやたら高くて、俺はまた美桜の記憶に入り込んでいるのだと悟る。

 だだっ広い部屋に、豪華な家具。いかにも金持ちそうな高級品ばかりが整然と並んだ白を基調とした室内。美桜は自分の伯父に食ってかかっていた。


「私はお前を芳野家の人間だと思ったことは一度もない。美幸の忘れ形見? 知ったことか。アレもアレで狂っていた。両親はやたらと美幸を庇ったが、私は騙されなかった。結局死ぬまで、美幸はまともじゃなかった。生まれたお前もまともじゃない。私に庇護されなければ生きていくことすらできないクセに、都度反抗的な目で睨んでくる。飼われているという自覚が足りない。それを『逆らう』と言うのだ」


「飼う……? 私は動物じゃないわ」


「動物じゃない? ハハッ! 馬鹿げたことを言う。獣だ。幼い頃から気に入らないことがあれば獣のように暴れまわっていた。それを懐柔するのにどれだけ苦労したことか。自覚がないということは、やはり獣だったということ。檻に閉じ込めておきたいが、どうやら世間はお前を人間だと勘定するらしい。残念ながら私にも世間体というものがある。悔しいがお前を養わなければならない。人間として。幸い金はたんまりある。私の視界から消えるならば、金はいくらでも出してやる」


 男の言葉は、美桜を興奮させた。

 湧き上がる怒りを必死に抑え、呼吸を整えようとする美桜。

 男は更に追い打ちをかける。


「消えろ。目障りだ」


 ――それが、引き金になった。

 溢れ出した力が波動となって、室内を駆け抜けた。美しく飾られていた調度品がパリンパリンと小気味よい音を立てて砕けていく。ガラスが、陶器が、欠片となって床に散乱していく。

 男はたじろいだ。

 何が起きているのかと目を見張る。

 目の前の美桜は怒ってはいるが、何を触ったわけでもなかった。それがまた、男の恐怖をかき立てた。


「ば、化け物……!」


 罵りの顔が真っ青に変わっていくのを、美桜はじっと見つめていた。





















・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・





















 赤黒い魔法陣がまた眼前に展開されていた。

 間に合うか。シールドを張るが、ヤツの方が僅かに早い。無数の黒い棘が身体に突き刺さっていく。両腕で頭を守るのが精一杯、腕にも足にも身体にも、棘の毒が染みこんでくる。竜化して全身を鎧で覆ってもこれだ。人間の姿のままなら。そう考えるとゾッとする。

 何の毒だ。

 どんどん息苦しくなっていく。

 毒の浄化を。解毒。

 今、常態的にかけている治癒魔法に重ねて、解毒魔法をかける。二つ以上の魔法を同時になんてできるのか。知るか。そんなことより、解毒。早くしないと、身体が動かなくなる。これは俺の意識体であるのと同時に、美桜の。





















・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・

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