無謀な戦い3
――竜化が始まった。
最初に変化が現れたのは手足。急激に溢れ出した力が俺の身体を変えていく。
激痛が走り、意識が遠のきかけるのをじっと堪える。歯を食いしばり、呻きながら
右手は両手剣を持つことすら難しくなって、全身締め付けられるような感覚でまともに立っていることすら辛くなって。
だけど大丈夫。身体は直に慣れる。足の先から頭の先まで、自分の遺伝情報がどんどん書き換えられていくのがわかる。人間じゃなくなる。角や牙や羽や尾や、人間にあるまじきモノが出現し、身体は肥大し、筋骨隆々としていく。興奮状態が持続し、呼吸が荒くなる。
と、ドレグ・ルゴラの巨大な腕が、俺めがけて落ちてくるのが見えた。
ヤバい。
咄嗟に床板を蹴る。通常よりもずっと高い跳躍力に自分でも目が丸くなる。気が付くとヤツの頭上を越え、燃えさかる帆船を俯瞰できる高度まで達していた。
バキバキバキッと激しい音を立て、船首が崩れ落ちる。平衡感覚を失った船が、凍りついた湖の上でぐらぐらっと大きく揺れ、その衝撃で船尾から何人かが湖面へと投げ出されるのが見えた。直後、魔法が発動しているところを見ると、ディアナかモニカが救ってくれているのだろうか。
「何だ……、その姿は……!」
ドレグ・ルゴラが低い声と共に俺を見上げている。
「竜化した……? 白い竜と? まさか!」
ガッと目を見開き、口をひん曲げているのが見えた。
想定外、だったのだろうか。
「それとも白い竜の鎧を具現化させたか? この窮地で面白い冗談だ」
ヤツに言われて、俺は自分の身体が巨大化していないことに気付く。筋肉が付き、一回り大きくなったが、竜の大きさではない。あちこち半竜人程度に竜化しつつ、白い竜をモチーフにした全身鎧を身に纏っていたのだ。
これではヤツと対等には。思っていると、美桜が何やら話しかけてくる。
『巨大化したら、それだけで膨大なエネルギーを消費してしまうわ。あなたの記憶の中でシンが言っていたことよ。“竜化は最低限”にしておいた方が良いって』
……なるほど。
記憶なんてホント、見られたい放題だな。
「ラジャ。ありがとう、美桜」
独り言のように呟くのを、ヤツは聞き取ってしまった。
「美桜……? リョウ、貴様、美桜と同化を……?」
「当たり。手段を選んでる場合じゃないんだ。どんな手を使ってでもお前を倒す。例え、自分の肉体を傷つけようと、だ」
口角を上げて挑発的に話すと、ヤツはワナワナと震え、雄叫びを上げた。
そうしてバッと帆船から飛び立ち、俺の真ん前までやってくる。
「金色竜を失い、肉体を失ってもなお、私を倒そうとする。リョウ、お前は一体何者なのだ。救世主とは何と無謀で、何と愚かな存在なのだ……!」
ヤツはそう言って、また大きく息を吸った。
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