147.無謀な戦い
無謀な戦い1
ズッシリと重い両手剣を構えた俺に、ドレグ・ルゴラは激高した。
甲板の中央から板を踏み抜きながら凄まじい勢いで迫ってくる。階下の船室や格納庫の天井が崩れ落ち、内部が露呈した。まるで段ボールハウスをぶっ壊すような勢いで帆船が壊されていく。どうにかこうにか巻き込まれぬよう逃げるのが精一杯、この状態で攻撃は難しいからだろう、誰も攻撃してこないのを良いことに、ドレグ・ルゴラは巨体を揺らし、我が物顔に船を壊しながら俺に向かってくる。
ヤツは興奮で尻尾を高く上げ、耳を劈くほどデカく咆哮した。
何度聞いても慣れない声に身がすくむ。汗が滲む手に一層力を入れ、俺はヤツを睨み付けた。
視界の奥で、船から脱出するよう先導するモニカたちの姿が見える。格納庫まで繋がった穴へ乗組員たちを向かわせ、エアボートでハッチから脱出させようとしているらしい。確かに、あそこには数台のボートがあった。砂漠から森へ向かった際、物資の運搬に使うためのモノだ。長距離の移動には向かなさそうだが、大人数を一気に運べる利点がある。ディアナが凍らせた湖面へと逃げ、そのままレグルノーラの大地に向かっていけばどうにかなりそうだ。
俺にヤツの注意が向いているうちにどうにかしてくれ。俺は願いながら、剣の刃先に向け魔法陣をスライドさせていく。
赤々と燃えさかる炎を纏った両手剣をしっかりと握り、剣を振るう。巻き起こった風の中を通り抜けるようにして炎がヤツの身体に向かっていく。
ブンと首を一振りして、ヤツはそれを振り払う。
「無駄だ」
一言、また大きく息を吸い込む。
「シバ! ルーク! 逃げろ!」
確か船首に居たはずだ。俺は姿を確かめぬまま叫び、再びシールド魔法を展開する。直後、熱風が船首を覆い、あらゆるモノが吹き飛ばされた。目視ではもう、誰が無事で誰がやられたのかさえ知ることができない。気配を探りたいが、それすらドレグ・ルゴラは許そうとしなかった。
甲板の床材に火が付き、あちこちらで火がくすぶり始めているのが見える。焦げた臭いとヤツの身体からあふれ出る生臭くねっとりとした風が、胃の中のモノを全部ぶちまけろと怒鳴りつけてくる。
こんなときに。
せっかく美桜と同化しても、心がそっぽを向いたままでは力が出し切れない。テラと上手く同化できていたのは、あいつが同化した人間の心に同調するのに慣れていたからだ。いくら強大な力があっても、使いこなせないなら意味がない。今までの戦いで十分わかっていたはずだ。
頼む、美桜。本気で、本気で力を貸せ……!
『凌、ひとつだけ……、聞いてもいい?』
彼女なりに頃合を図ったのだろうか。俺が力を抜いたところで、美桜が恐る恐る話しかけてくる。
「なんだよ」
ぶっきらぼうに答えると、美桜は一瞬言葉を詰まらせる。
「早く」
次の攻撃が来る前に動かないと。焦って言葉に集中できない。
これ以上船の上で戦うのは難しそうだ。湖面に降り、そのままヤツを誘導するか。
『ごめんなさい。ひとつだけ、ひとつだけ教えて。凌は、凌は……』
勿体ぶる美桜にイライラが募る。
「来澄! こっちは無事だ!」
視界の外からシバの声がして、俺はフッと力を抜いた。
『どうして、全部知ってて、私のこと嫌いにならなかったの……?』
くだらなすぎる質問がふいに頭に降りてきて、俺の時間は一瞬止まった。
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