起死回生を信じて3

 唐突なお願いに面食らうディアナ。

 どういう意味だと首を傾げ、芝山を見下ろす。


「“二次干渉者”なんです、ボクたち。ボクも須川さんも、“一次干渉者”の影響下でないとレグルノーラには飛べない。陣君はレグル人で実体は“向こう”だし、モニカもノエルも能力者ではあるけれど干渉者じゃない。ディアナ様に頼むしかないと思って慌てて来たんだ。どうにかボクを、レグルノーラに連れてってくださいませんか」


「し……、しかしな、おさ。この非常時にリアレイトを離れることが果たして得策かどうか。それに、今更戻ったところで、私は居場所さえ捨てて」


「夢で見たんだ。いや、正確には夢じゃなかったかもしれない。“新しい塔の魔女”を名乗る金髪の若い女性が、帆船のおさであるシバを呼んでいた。かなり重要な用事があるらしいし、ボク自身がシバとして赴かなければどうにもできないことらしい。この事態を打開するための方法の一つとして、彼女はとんでもないことを考えたと」


「――ちょ、ちょっと待ってください! 何ですか、その“新しい塔の魔女”って。ディアナ様というお方がいらっしゃるというのに!」


 モニカが思わず声を荒げた。テレビの前で縮こめていた身体をグンと起こして芝山に突っかかる。芝山は自分より大きなモニカに圧倒されつつ、そんなことを言われてもと眉をひそめた。


「私がこちらへ飛ぶ前にもう決まっていたことだよ、モニカ」


 と、ディアナ。


「塔の魔女の使命を放り投げてまで、この事態をどうにかしようと思ったのだ。後継者を直ぐに決め、滞りなく塔の運営ができるようにと私が指示した。候補の中にお前の親友ローラがいた。おさの証言から察するに、彼女が選ばれたのだろう。適任だ」


 ローラという名前を聞いた途端に、モニカの表情が緩んだ。胸に両手を当て、ホッとしたように息を吐く。


「そうですか、ローラが。よかった。彼女ならば安心です」


「で、その新しい塔の魔女が、おさを呼び出してどうする気だと?」


 ディアナが話題を戻すと、芝山は首を傾げ、


「帆船に関係があるような話をしていた。でも、確かボクが行けなかった間に、帆船は砂漠の縁から黒い湖の中に落ちたとか……」


「ええ、そうです。救世主様と私、ノエルの三人で確かに目撃しました。あのときは本当にシバ様が魔物になられてしまったのかと、気が気でなかったのですよ」


 モニカが補足すると、ノエルも芝山も、うんうんと内容を確かめるようにうなずいた。


「……なるほど。しかし、レグルノーラへ飛ぶ手段を失った二次干渉者の力を必要とするからには、ローラにはローラなりの考えがあるのだろう。わかった。飛ぶのはおさだけでよいな?」


「ありがとうございます!」


 ディアナの手を両手で握りしめ、芝山は満面の笑みを見せた。





















・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・





















 都市機能は完全に麻痺していた。

 神出鬼没の白い竜に、日本中が大混乱した。

 公共交通機関は完全にストップ。街に溢れた人々が、帰宅方法さえ失って右往左往している。テレビもラジオもネットも、白い巨大な竜の話題で持ちきりだった。どこぞの国の生物兵器だとか、太古の恐竜の復活だとか、はたまた異星からの襲撃だとか。相変わらずマスコミはクソのような予想を立てて民衆を刺激し、世間はそれに踊らされて大騒ぎした。少し前にあった私立高校の消滅事件と共に、何かおかしなことが起こっていると、解決方法もまともな分析もないコメントを流しまくっている。

 まさかもう一つの世界が存在し、そこで破壊の限りを尽くした竜が“こちら側”へやってきただなんて誰も思わないわけで。その竜が二つの世界を繋げて大混乱に陥れようとしているだなんて、大部分の人にとっては絵空事にしか過ぎないわけで。

 この事実を知っているのは一握り。

 “裏の世界レグルノーラ”に関わった数少ない人間だけが、この事象の本当の原因を知っている。

 意識だけが、まるで幽霊のようにあちこちをさまよった。

 どうにか自分の立場と現状を伝えなきゃと思いつつ、俺の存在に完全に気が付いたのは、グロリア・グレイただ一人。

 目は合う。

 けれどそれだけじゃ。

 こうやって意識が自由であるウチに、何とかしないと。

 この意識さえ消えてしまったら、もう手が打てなくなる。











・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・











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