起死回生を信じて2

 画面に映し出される巨大な白い竜。

 破壊され、燃やされていく都市と、逃げ惑う人々、対応に追われる行政や駆け回る緊急車両の映像が速いペースで切り替わっていく。まるで戦争状態だ。緊急避難を呼びかけるアナウンスや被害状況を知らせるテロップが延々と繰り返され、一刻を争う事態になっているのだと訴えてくる。


「エリアメールもうるさいし、場所によってはサイレンも鳴ってる。携帯も持ってない、テレビもラジオも不要な生活を送ってちゃ、気付かないんだろうけど」


 言葉を失い、食い入るようにテレビを見つめる面々に、芝山が強く言う。


「“表”に白い竜が現れた。アレって、美桜じゃないよな。美桜はもっと若くて、鱗も綺麗だった。あんなにゴツゴツした男性的なフォルムじゃないし、何よりあんなに邪悪じゃない。もしかしてアレって、いわゆる“ドレグ・ルゴラ”ってヤツじゃないのか。来澄が戦いを挑みに行ったかの竜が、何で“表”で暴れてる? それってつまり、来澄は負けた。救世主の力をもっても、あの恐ろしい竜は止められなかったってことなんだろ。どうなんだよ!」


 バンと、芝山はテレビの角を強く叩いた。薄型テレビが衝撃でグラングラン揺れ、一瞬画面がぶれる。


「そういう……意味で間違いないだろうね」


 一番後ろでテレビを見ていたディアナが、深いため息と共にそう返した。


「凌は負けた。けれどおかしいのだ。凌の気配がする。ここのところずっとだ。今もどこかで、凌が私たちの様子を覗ってるんじゃないかと思うくらい、直ぐ側に凌の気配を感じるのだ」


 ディアナは部屋中をグルッと見回して、一瞬俺の方に目を向けたが、気のせいに違いないと直ぐに目を逸らした。


「昨晩ふと、美桜の部屋から強い気配がしてね、私は夜中にむっくり起き上がって彼女のところへ行ったのさ。そうしたらそこに凌が――、いや、凌だったような気がする。けれど同時に感じたことのない邪悪な気配もした。美桜が居なくなったことと、凌の気配がすることと、かの竜が“表”に現れたことと、全てが繋がれば謎は解けるのかもしれないが」


「――美桜が、消えた?」


 屈んでテレビを見ていた陣が、その言葉に反応して立ち上がった。


「消えた、とは」


「言葉の通り。朝起きて身支度して、飯田さんが飯を作りに来てくださって。今日は少し涼しいから、窓を開けて差し上げたらと飯田さんに言われて、モニカが部屋に入って気が付いた。窓は全開、出かけた形跡はない。事故で建物の下に落ちてやいないかと目を凝らしたが、この真下は駐車場で、遮るものなど何もない。微かに気配はするのだ。けれど、今の美桜は気配が弱すぎて、探すに探せない。要するに、どこへ行ったかわからないのだ」


「この広い世界で美桜を探すなんて……」


「あんな格好で空を飛んでるんだ。目立てばいいが。ところでおさ、“表”の連中は魔法の概念すらない世界でどうやってかの竜と戦おうとしている?」


 おさと呼ばれ、ピクリと芝山が反応した。ズレた眼鏡をクイッと直し、苦しそうな顔をディアナに向ける。


「さぁ……。わからないな。自衛隊の爆撃機やミサイルもあまり効果的ではないらしいし、かといってあんな都市部でこれ以上激しい戦闘を行うわけにもいかないはずだ。人命第一と言いながら爆撃許可しただけでも政府を褒めるべき、みたいな風潮はある。正体は不明だし、突然消えて別のところに出現してみたり、容赦なく街を焼き尽くしたと思えば、人間を鷲掴みにして口に放り込んでいたって証言もあったみたいだし。葬り去りたいところ山々だけど、全くもって対処方法がわからず地団駄踏んでる状況なんだろう。それは、ボクたちも一緒だけど」


「自衛隊……レグルノーラで言う市民部隊のようなものか。確かにこの映像を見ても、かの竜は出たり消えたりを繰り返している。アレでは作戦の立てようもなかろう。それにしても、そうか、かの竜は人肉の味まで覚えてしまったか。本来竜は肉食であっても知能のある人間など食わないのだがな……。レグルノーラに居れば自然に補充できる魔法エネルギーの代替として人肉を選んでいるなんてことはまさか」


「……不穏なことは言わないでくださいよ、ディアナ様。それより、そうだ。お願いがあって来たんだった。ボクを、レグルノーラに連れてってくださいませんか」


「ハァ?」


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