理由4

 ヤツの感じていたコンプレックスは、俺とは桁外れだったに違いない。

 俺も目つきが悪いとか妄想癖があるとかで爪弾きされることはあったが、少なくとも存在を否定されることはなかった。ヤツは自我の形成期に散々な目に遭ってきたようだ。

 同族であるはずの竜から無視され、白い身体を持ったことで様々な獣に襲われ死にかけた。その度におきなが守ってくれたようだが、根本的な解決策などなく、ただ苦しい、悔しいだけの日々を過ごしていた。

 文献にもあったように、白い竜は自然界には存在しない突然変異体だったようだ。リアレイトで言うところのアルビノというやつらしく、そういった個体は様々な理由から長く生きることが難しい。病気にかかりやすかったり、目立って天敵に襲われやすかったり。だからヤツも、相当苦労した。そうして、どんどんどんどん、黒い感情を重ねていく。

 自分を認めない世界を恨み、破壊願望を募らせていったヤツが、様々な名前で呼ばれ始めたのは、成竜となって砂漠へ旅立った頃。自暴自棄になり辿り着いた先が、あの黒い湖だった。

 黒い感情の蓄積された水を浴び、身体に取り込み、ヤツはとうとう、自分を完全なる悪に染めてしまう。

 白い鱗の竜として生まれた自分を認めない世界を破壊する、それだけのために生きることを決意する。


 ……こんなモノを見せて、俺を味方に付けようとしているのか。

 自分は悪くない、環境が全て悪かったのだという言い訳を正当化しようとしているのか。


『同情など望まない』


 ドレグ・ルゴラは俺に言う。


『お前こそ、私の過去を覗き見てどうしようというのだ。私は自らの意思で闇に身を投じた。お前は大人しく私に身体を差し出していれば良い。私の力と、お前の中に秘めた力を使えば、二つの世界を混沌に陥れることができる』


 その、混沌の先には何がある?

 全てを破壊し尽くした後、お前は無になった世界で何をしたいんだ?


『うるさい、うるさいうるさいうるさい……! 黙れリョウ。お前には私の理想はわからない。動揺させようとしているのか。人間の分際で』


 その、人間の身体と同化することで大きな力を得ているお前が言うセリフじゃない。

 ドレグ・ルゴラ、お前、本当は単に――。











・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・











 バッと明るい光が視界に飛び込んできた。破壊された街の中で、ヤツは足元に魔法陣を描いていた。


――“リアレイトの美桜の元へ”


 転移魔法だ。

 こいつ、この状態で。


『レグルノーラでは満足できぬ。この力を発揮するには、それ相応の舞台が必要だ』


 何を考えてる。

 “表”でお前は何を。


『あらゆる因縁に決着を付ける。私は、全てを終わらせなければならない』


 ヤツはそう言って、光の中に俺の身体を溶かしていった。

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