【26】融合
118.現状把握
現状把握1
厳しい残暑の日差しが照りつけ、Rユニオンの部室は蒸し風呂状態だった。
先に到着してた芝山が扇風機を全力で回していたが、びっくりするほど効果がない。冷蔵庫で冷やしていた古賀の差し入れ、炭酸ジュースを飲まなければ、数分も持ちそうになかった。身体中の汗腺から汗という汗が流れ出て、水分を常に欲する。タオルで何度も拭いて、それでも尚、汗は出続けた。
開け放した窓の外からは蝉の鳴く声がうざったいくらいに響いてくるし、階下で行われているらしい後期補習の声も暑さを倍増させた。
「来澄、“救世主様”の力でエアコンは具現化できないのか」
熱でやられたのか、芝山が机に伏したまま阿呆な発言をしだす始末。
「具現化できたとして、誰が電気工事するんだよ。お前か」
言い返してやったが、暑すぎて返す力もないらしい。
「もうちょっと、場所を考えた方が良かったのかもしれませんけど。私たち“裏の人間”にとっては……、暑過ぎますね」
椅子に座り、手を団扇のように振りながらモニカが言うと、ノエルも着慣れない開襟シャツのボタンを全部外しながら、
「建物も衣類も通気性が悪い。“表”の人間は馬鹿なのか」
その気持ちは物凄くわかる。“向こう”では砂漠でさえこんな暑さではなかった。これでは干からびて死ねと言われているような気分になる。
「大丈夫、私たち“表”の人間さえ、こんな暑いところに住んでる自分たちは馬鹿だと思ってるから」
須川に至っては、女子力の欠片もなく足を広げて椅子の上で呆けている。
「これに美桜、陣、それから“裏の干渉者”が何人かわからないが加わるわけか。確かにあり得ない」
すし詰め状態を想像して、俺は深くため息を吐いた。
美桜曰く、夏期休暇中とはいえ教師や生徒が多数登校する今の状態では、学校内で話し合える場所がここしかなかったということらしいが。暑いし狭いし良いところが何もない。
「けど、かといって美桜のマンションじゃ“裏”の連中を案内できない。結局ここがベストだと言うんだからしょうがない」
芝山は優等生らしく現状を受け入れようとしているが、そんな簡単な問題じゃない気がする。
「せめてさ、来澄の力で涼しくできないのかよ。美桜に聞いたけど、魔力は無尽蔵なんだろ」
「何だよ無尽蔵って」
「限界まで体力を使ったと思っていても次の魔法が撃てるらしいって聞いた。その力で何とか部室を涼しくできないのかって聞いてるんだけど」
脳みそが沸騰してしまったのか、わけのわからないこと言い出す芝山に困惑する。
「つまりアレか? 芝山は俺にエアコンになれって言いたいわけだ」
「そうそう」
「魔力の無駄遣いじゃね?」
「無尽蔵なんだから問題ないだろ。早くしろよ」
コイツは。
汗を拭いながら睨み付けると、逆に俺に対して皆が変な顔で見つめているのに気付く。芝山然り須川然り、モニカやノエルまで。
「暑い……、凌、お願い」
「お願いします、救世主様。私どもはそろそろ限界……なので」
「救世主様ともあろうお方が、その程度の魔法も使えないとか、……ないよな?」
言い方は様々だが、要するに言いたいことはひとつだと。
これは拒否するとめっちゃ怒られるヤツだ。
俺は深くため息を吐き、渋々と立ち上がった。
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