眠れぬ夜3

「あと三日、ですか?」


 モニカが目をぱちくりさせる。


「なんとも残酷ですね。その間に何ができるでしょう」


 強い日差しが朝から差し込み、リビングはやたらと眩しかった。

 朝食を片付けながら、モニカがう~んと何度も唸り、それを間近で聞かされたノエルはげんなりと肩を落としている。


「半竜人のアレはあながち夢ってわけでもなかったって、証明されてる気がする」


 黒い湖の底で古賀に言われた一言が、今になって刺さってくる。


「“こっち”でも古賀が同じことを言っていたとなると、冗談ってわけでもなくなりそうだな。要するに、カウントダウンは始まってるという意味で良いんだよな?」


「凌の言う通り、とにかくあと三日。夏休みが終わるまでの間に、古賀先生たちかの竜側が“表”のどこかで何か行動を起こそうとしているらしいのよ。本当はゲートを閉じている場合じゃないのかもしれない。私たちの知らないところで、かの竜はいろんなことを仕掛けているのかも」


 美桜も神妙な面持ちで、手元の皿を洗っている。


「けどさ、何をしようとしているのか、全然わからないって不気味だな」


 ノエルが言うと、皆一様に顔をしかめた。

 台拭きでダイニングテーブルを拭く手を止め、俺もしばし考えにふける。

 そう、わからない。相手の考え、相手の実体、相手の戦闘力が何もわからない状態で、俺たちは戦わなくてはならない。

 まるで“悪魔”の正体もわからず、闇雲に戦っていた頃のような気持ち悪さがある。まぁ、“悪魔”に関しては、原因はわかったものの、その全てを解明できたわけではないのだが。


「一度……、集まってみたらどうでしょう。救世主様のお仲間と、ゲートの監視に協力している裏の干渉者たちを一箇所に集めて、情報交換をしてみるというのは?」


 モニカが言うと、美桜は何度か頷いて、


「そうね。その方が良いのかも。本当は“向こう”で話し合いたいところだけど、モニカもノエルも干渉者じゃないし、シンと同化した状態の凌が“向こう”に行けるのかもわからないからそれは多分無理だろうし――。“こっち”で時間を調整して早急に打ち合わせるべきね。ゲートの状態含め、今どこで何が起きているのか全部把握しないと、多分勝てない」


 昨夜語った不安を、美桜は微塵もにじませなかった。

 スイッチの切り替えが上手いと言うべきか、それとも人に感情を探られないようにするのが上手いと言うべきか。

 いつもと同じように凜として、ハキハキと動いている。


「芝山君たちとも連絡取ってみるわ。それから協会にも飛んでみる。なんだか途轍もなく、嫌な予感がするのよね……」


 夏期休暇の後期補習や部活が行われている学校内で、彼らが何を企むのか。果たしてそれは臆測通り学校内で起きるのか。

 かの竜が未だほんの少ししか手の内を見せていないような気がして、俺はふと身震いした。

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