現状把握2

「戦闘以外でこんな注目されながら魔法使うとか緊張するんだけど」


 言ってはみたものの、「だから?」という目でこちらを見てくる四人。

 致し方なく右手を前に突き出して魔法陣を錬成する。


――“灼熱の部屋に涼やかな風を吹かせ室温を下げよ”


 我ながらセンスのない文字列に愕然とするが、これはこれでどうしようもない。申し訳程度に魔法陣の真ん中に“25℃”と書き足してみる。

 空中に描かれた魔法陣が青く光り、そこからじんわりと涼しい風が吹きだしてくると、四人は申し合わせたかのように手を叩いた。


「流石救世主様!」


「完璧!」


「やればできる!」


 何に対して褒められているのかよく分からなくなったところで、念のため「満足?」と聞くと、冷気を感じてるから感想はその後とばかりに四人とも俺を無視した。

 魔法陣をそのまま天井に焼き付け、


「涼しい空気逃げるから窓閉めるよ~」


 とりあえず窓を閉め、入り口の戸も閉めようと手をかける。ふと、廊下に人の気配があることに気付いて、廊下に身体を半分出し確認。美桜と陣、その後ろに大きめの人影が数人分ある。

 手を上げて合図すると美桜と陣も片手を上げて反応し、陣の口が「暑い?」の形に動いた。


「ちょ……っとは涼しくなってると思う。効果はこれから出るんじゃなかな」


 廊下に響いた俺の声に、美桜と陣は顔を見合わせて首を傾げ、後ろの人物たちに何やら頭を下げている。恐らくは「中はかなり暑いらしいです」的なことを言っているのだろう。“表”に来て間もない彼らにとって、校舎の中は地獄に違いない。

 美桜が先導して部室に彼らを案内し、俺は入り口でどうぞと彼らを招き入れた。そのとき髪の毛の間からチラチラと額の赤い石が見えていたのか、部室の中に入るなり彼らの一人が、


「まさか救世主様直々のお出迎えですか」


 と驚きの声を上げた。


「別に直々ってわけでもないけど」


 そういう風に言われると、なんだか決まりが悪い。肩書きがどうであろうが俺は俺であって、かしこまられるべき人間ではないのだが、それを説明するのは難しそうだ。

 大人の干渉者が四人。白髪の屈強な中年男性、眼鏡をかけた細身で長髪の青年と赤毛の青年、それから金髪セミロングの女性。皆一様に協会のマークが肩の部分に入った丈の短いマントを羽織り、レグルノーラ独特の市民服をアレンジしたような格好をしている。

 客人が入ると、流石にだらっともできず、暑さにやられていた四人も各々立ち上がり、大急ぎで身なりを正していた。


「お。涼しい」


 陣がボソッと呟き、美桜も、


「あらホント」


 と目を丸くする。


「救世主様のお陰です」


 モニカが嬉しそうに囁いて天井を指さすと、


「最早何でもアリだな」


 と陣が苦笑いした。


「雑談はいい。さっさと話を進めようではないか」


 年長の白髪頭がパンパンと小気味良く手を打ち言い放つと、部室内に一気に緊張が走る。


「そうですね。そうしましょう」


 陣も改まってキリッと顔を正した。


「こちら干渉者協会から派遣されている干渉者の皆さん。右からレオ、ルーク、ジョー、ケイト。そして先ほど室内に案内してくれた彼が、我らが救世主、凌。それからシバと、怜依奈。モニカとノエルは“向こう”でも面識があると聞きました。僕はこちらでは陣と名乗っていますが、通常通りジークとお呼びいただいて結構です」


 陣がしっかりと一人一人手のひらを向けて紹介する。名を呼ばれる度に一人ずつ頷き、俺たちは互いの顔と名前を必死に一致させた。


「立ち話も何ですから、まずは座りましょう。シバ、ノエル、椅子を」


「了解」


 部室の隅に置いてある折り畳み椅子を両手に抱え、一人にひとつずつ配っていく。椅子を広げて座ると狭い部室は満杯で、かなり申し訳ない状態になっていた。

 やはりと言うべきか、六人が追加で部室に入ったことで室温はまた上昇を始める。しかも彼らの服は見た目に相当暑そうだ。こうなってくると、その場のノリで使ってしまったエアコン魔法の存在感が増してくる。上から常に涼しい風は降りてくるし、追加で書いた25℃も生きているのか、どうにかこうにか室温を下げてくれている。あとは俺が常時魔力を注ぎ続ければ、何とか持ちそうだ。


「念のため、結界も」


 陣が言って、右手を掲げる。魔法陣なしに部室全体を結界が覆っていく。この辺は流石としか言い様がない。


「さて。何から話す?」


 白髪頭のレオが腕組みして言うと、


「そうですね。話があるからとわざわざ別の人間を“こっち”に派遣させて代役をお願いしてるんです、とにかく手短にしなければなりません。まずは今我々が置かれている状況について曖昧な部分を解消したいかと」


 眼鏡のルークが鋭い目つきで俺たちを見定めるように言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る