因縁4

 気が付いたら日が傾き始めていて、カーテンを透かして夕日が差し込み、薄暗くなった部屋全体がオレンジ色に染まっていた。

 時計を見ると結構な時間で、芝山が小さな声で、


「しまった、塾の時間」


 と言っているのが聞こえてきた。


「来澄が無事で良かった。とりあえず帰るよ」


 芝山がグンと背伸びしてソファから立ち上がった。

 それはこっちのセリフだと思いながら、俺は芝山にまたなと手で合図する。


「あ、待って。靴持ってくる。魔法で家まで送る? 家をイメージすれば飛べるように魔法陣描くから」


 と美桜。

 すかさず須川が、首を横に振る。


「ダメダメ! 歩いて帰る! イメージ不足で違うところに飛んじゃったら大変だし」


「なら、僕が怜依奈を送るよ。僕は自分で“向こう”に帰ればいいわけだから」


 ジークが須川の肩を抱きフォローすると、須川は一瞬顔を赤らめて、


「し、下心ないわよね?」


 と聞く。


「ないない。単純に君が心配だから。まかり間違っても万が一なんてない。僕は美桜一筋」


 気を利かせているんだか利かせていないんだかさっぱりわからないような話し方で須川が納得するとは思えないが、陣は堂々と言い放った。


「で……、凌はどうするの」


 須川が俺の顔を覗き込んだ。

 場の空気がピタッと止まって、皆が一斉に俺を見た。


「ど、どうって……。家に帰ったところで、俺の存在はなかったことに……だろ?」


 テラと同化したまま“裏”に飛んだことで、変な魔法が発動した。レグルノーラに関係する人物除いて、俺の存在はこの世界から全部から消えてしまったのだ。

 美桜の話では、俺は小さい頃に死んでしまったことになってるらしいから、家に戻っても絶望しか待っていないはずだ。

 それに、一緒に来てしまったモニカとノエルをどうするかという問題もある。まさかコスプレ外国人状態の二人を放置するわけにもいかないし……。


「凌たちはここに泊まれば良いわ」


 美桜が言うと、今度は一斉に目線が彼女に移った。


「けど、同級生の家にお泊まりってのはちょっと……。寝床くらいどっかで」


「その様子じゃ、“こっち”のお金だって持ってないでしょ。どうやって過ごすつもりよ。ここならば寝るところもあるし、食べるモノにも困らないわ。さっきも言ったけど、凌のことはきちんと飯田さんにも話したし、問題はないと思うけど」


「いや、そういう意味じゃなくて。俺が困るってのは、その……」


 頭を掻きつつ困っていると、モニカがサッと前に出た。


「せっかくのご厚意です。甘えましょう、救世主様」


「俺も、よく分からないところで野宿はゴメンだね。泊まらせて貰えば良いじゃん」


 ノエルも口を尖らせている。

 そういう問題じゃなくて。

 気にするだろ、色々と。

 俺が渋っていると、美桜は馬鹿じゃないのとばかりに鼻で笑った。


「別に、二人きりってわけでもないし。“救世主様”が変な気を起こさないよう、きちんと“見張り”が付いてるじゃない。モニカにノエル、それにシンだって。空いてる部屋もあるし、気にしなくても大丈夫よ。それとも何? ウチじゃ不満?」


「いや、そうじゃ、ないけど。っていうか、迷惑かな……って」


「本当に融通聞かないわね。とにかく、泊めるから。O.K.?」


 両手を腰に当てて前屈みになり、美桜が頬を膨らましている。

 これはもう、他の返事はできないヤツだ。


「お……、オー、ケィ」


 右手でO.K.の形を作ったが、顔は完全に引きつっていた。


「お熱いわねぇ」


 背後から須川の嫌味たっぷりな声が聞こえて、俺はブルッと背中を震わした。

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