次へ進むために4
俺も彼女の真ん前にゆっくりと座り、いつでも話が再開できる態勢であることをアピールする。
「モニカとノエルは、竜石を持ち帰るための車両と道具の手配をしている。もう少し待てば戻ってくる」
「ありがとうございます」
仕事が早いのは助かる。実際、ゆるりと構えている場合じゃないから、そうでもしてもらわないと困るわけだが。
「それにしても、まさかお前から竜石のことを言い出すとは思わなかったね。方法の一つとして知ってはいたが、実際問題成功するかどうかもわからない、ある意味大きな賭けだというのに」
「やらないよりはやった方がいいと思ったまで。最終的には倒すつもりでいますが、最悪封印ができれば御の字。100%を期待しているわけではありません」
「……へぇ」
ディアナの顔が曇る。
前のめりになって手前のローテーブルに腕をつき、俺の顔にグイと身体を寄せる。
「なぜ確証もないのに竜石を求める。竜石を使えば、かの竜を倒せるわけではないというのか」
「竜石はあくまで竜の力を封じるもの。倒すためのものではないというのは、ディアナ、あなたが一番ご存じのはず」
と、ディアナの手が急に俺のアゴを掴んだ。
まるでワイングラスの中身を吟味するかのように、俺の顔をまじまじと覗き込む。
「生意気さがなくなったと思ったら、随分気持ち悪くなったな」
「は……?」
「丁寧な言葉遣いで従順さでも表現しているのか。自分が納まるところに納まったことで、妙な安定感が出たのか。お前を失って己を見失ってしまった美桜も見苦しいが、“救世主”として自分の運命をすっかりと受け入れて“らしさ”を失ったお前も十分見苦しい。単に私が竜石を埋め込んだことが原因ではないだろう。何がお前をそこまで追い詰めた。竜石を必要とする本当の目的は何だ」
肌の黒いディアナは、紅潮していてもあまり色が変わらない。その代わりに、目が血走っているのが良く映える。ギリリと噛んだ奥歯まで、ハッキリと黒い肌から浮き出て見える。
「嘘は言ってない。かの竜を封じるために竜石は絶対に必要だ。たくさんの竜石を手に入れ、確実にかの竜を封じる」
「お前の言い方には含みがある」
全部言い終わる前に、ディアナはセリフを被せた。
「本をたくさん読んだと言ったな。私たちには読めない黒塗りの言葉も、お前は読んだのだろう。真の救世主でなければ読めないあの箇所に、一体何が書いてあった」
聞かれたところで。
俺は眉間にしわ寄せ黙りこくった。
「ひとつ、聞いても?」
「何だ」
とディアナ。
「あなたが救世主として俺を選んだのは偶然じゃない。違いますか?」
ディアナの手が、俺のアゴからそっと外された。
「な……何?」
身を引き、ゆっくりと自分のソファに戻っていくディアナ。心なしか、少し震えている。
「俺は都合の良い人間だった。干渉能力を持ち、孤独で単純で、実に扱いやすい人間だった。その上、幼いころに死にかけた過去を持っていた。目印のないはずの金色竜の卵を俺に宛がい、同化を促した。本当は、金色竜のテラが人間と同化して戦うのも知ってたんじゃないんですか。美幸の時には同化しなかった。それは彼女が身籠もったからだ。竜と同化して戦う人間がいずれ言い伝えにある救世主となっていくことを、あなたは知っていた。同化したまま時空を超えれば同化が解けなくなる恐れがあると知っていながら、あなたは俺を放置した。竜石を埋め込んで力を押さえ込み、さも偶然に救世主を見つけたように取り繕った。最初から決まっていた。俺はあなたの呪いか、それともこの戦いか、どちらかで必ず命を落とす。遅くとも心臓に呪いをかけたあのときに、俺の運命は決まっていたんだ。そうですね、塔の魔女ディアナ……!」
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