複雑な2
申し訳なさそうにジークが手を合わせてこちらを見ている。最近やっと“干渉者”らしいことができるようになってきたずぶの素人に向かって『協力してくれ』なんてどうかしてる。何とも微妙な気持ちだが、ここはわかった以外の返事はありえなさそうだ。
「とりあえず協力はわかったけど……、さしあたって何をすれば良いのか具体的に指示をくれないと困るな。闇雲に動くだけだと、今までと何も変わらないわけだろ?」
「ああ、それなんだけど」
俺の返事に気をよくしたのか、ジークはパッとわかりやすく表情を明るくした。姿勢を正し、拳を膝の上に載っけて咳払い。
「君たち二人の通う学校、翠清学園高校の“ゲート”をしっかりと監視して欲しい。何かが起こるとしたら“ゲート”の周辺だってのは、さっきも話してわかってると思う。僕も監視を続けるけど、やっぱり内部を探るには限界がある。一応別の手も打ってるんだけど、色々と思ったようにいかなくて。特に2-Cの教室周辺は強力な“ゲート”になってるようだから、是非頼むよ」
念押しされ、俺は勢いで「はい……」と答えてしまった。
返事をしたところで本当にできることなのかどうかもわからないのに、ジークは満面の笑みで急に立ち上がり、パンパンと手を叩いた。
「よし。話はした。あっちの部屋に戻ろう。で、お茶の続き」
え?
この流れで?
どうにも独特のテンションでついて行けそうにない。
「そういえば、クッキー途中だったわね。せっかくだもの、ご馳走になりましょうよ」
と、美桜まで。
メリハリがあって良いですねとでも言えば良いのか。直前まで深刻な話をしていたはずなのに、そんなことはもう忘れてしまったのかと心配になってしまうくらい楽しそうに、ジークと美桜はサーバールームから出て行った。
こんな所に一人残されても困るわけで、俺も渋々後に続いて洋間へ向かう。
重い足取りで戻っていくと、二人は少し冷めたお茶をすすりながら既に談笑を始めていた。美桜の左隣に座り、ジークの焼いたクッキーに手を伸ばしながら、俺は二人の顔を交互に眺めた。
ジークと居るとき、美桜は本当に楽しそうだ。
「でね、凌ったら酷いのよ。素質はありそうなのに、全然力が使えないんだもの。最近やっと戦えるようになってきたんだけど、どうやったら強くなれると思う?」
会話の内容はともかく、美桜はいつもより流暢に話した。
ジークもずっとニコニコとしている。
「どうやったら? さぁ、どうだろう。ただ、君のやり方はあまりにも強引だからね。もうちょっと初心者にも優しくした方がいいと思うよ。僕が魔法を習い始めたころも色々やらかして先生に散々怒られたけど、凌は元々武器や魔法に囲まれた世界で生きてきたわけじゃないんだから、その辺ちゃんと考えてあげなくちゃ。僕が彼の立場だったらとっくに切れてるし、とてもじゃないけど今後一切関わり合いたくないって思ってしまっていたかもしれない。凌が我慢強いからどうにかなっているのであって、そこは美桜もきちんとわかってあげた方が良い」
「随分な言い方ね。で、どうなの、凌。私のやり方じゃ力を付けるのは難しいかしら」
突然のブーメラン。
ドキリと肩を震わせ、俺はおどおどと答える。
「え? いや。どうだろう。習うより慣れろというのは何となくわかるようなわからないような」
「ほら、わからないんだよ。だからちゃんと教えた方が良いって」
「何となくわかるんならいいじゃない。即戦力が必要なんだから、基礎から教える必要はないでしょ。実戦で覚えた方が絶対効率いいと思うけど」
美桜が明確な答えなんて求めていないのは会話の内容から何となく察せられた。
それに、ジークと話すとき、美桜は俺のときみたいに上から目線じゃない。二人とも同じ高さで話しているような気がして、何となく居心地が悪い。
こんな言い方は間違っているのかもしれないけれど、ジークと喋っている美桜は、俺の知ってる美桜とは違う。別人だ。
帰りたいな、と思い始めた。
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