古書2

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≪白き竜は本来存在しないものである。どの種類の竜との交配でも誕生しないことは、研究から明らかとなっており、白き竜がどこで生まれ、どのようにしてこの地に至ったのかは明らかでない。

 人語を操り、時に人間の姿に変化へんげする魔法力の高い竜は一握りであり、こうした竜のいずれかから突然変異的に誕生したものではないかと推測されるが、そもそも竜の産卵率は非常に低く検証不能である。

 白き竜の恐ろしさはその巨体にある。街を一飲みしてしまうほどの大きな口と、全てを吹き飛ばさんばかりの巨大な羽、森を払い尽くせるほどの長い尾は、出現する度に甚大な被害をもたらした。

 記録に残る最古の被害はおよそ一千年前。それまでレグルノーラは広大な森と山々に囲まれた豊かな土地であったが、白き竜は山という山を全て砕き、砂漠を築いたという。但し、砂漠の地質と山の地質は本来全く異なるものであり、地質学的にはあり得ない話であることからして、白き竜の脅威を伝えるための方便ではないかと結論づけられている。

 また、白き竜の出現と同時期に、野生動物の一部が魔物化したという調査結果がある。それまで人間の生活範囲を脅かすことのなかった魔物が森に巣くい、居住空間を奪っていった。人間は自らを守るため竜を飼い慣らし始める。従順で賢い竜は人間に従い、共に戦う様になっていった。≫





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「かの竜の登場と共に現れたのが、“干渉者”だという記述もありました」


 モニカはまた、数ページ目繰ってその記述を指で示して見せた。





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≪それまで全く別の道を辿ってきた二つの世界が、ある一点において交差すると穴ができる。リアレイトの言葉で“ゲート”と呼ばれる穴は、二つの世界を行き来する力を能力者に与える一方、全く魔法を帯びないリアレイト側の人間にも力を与えた。

 力を得たレグル人とリアレイト人はそれぞれの世界を行き来する様になり、互いの文化に干渉し、言葉、生活様式、食文化、建築など多岐にわたって強く影響を及ぼしあってきた。

 この穴は何らかの要因がなければ通常開くことはなく、それぞれの世界を守るための見えない膜を破るには相当量の魔力が必要になるため、一説には白き竜が穴を押し広げていると言われている。≫





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 “リアレイト”というのは“表”のことだろうか。普段は“表”“裏”としか呼称しないのにも何か理由があるのだろうか。


「それから、さっき見ていたのが救世主様に直接関わりそうなページで……」


 元のページに戻る。

 金色竜と赤い石を持った人間の挿絵。





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≪金色竜を従えたリアレイトの干渉者は、竜の力をその身に宿し白き竜に立ち向かった。元々魔法に耐性のないリアレイト人にとってこの行為は命に関わるため、レグル人の助言により竜石の力を借りたと言われている。リアレイトの干渉者は、竜の瞳と同じ色の石に力を蓄え、必要に応じ力を解放することで身体への負担を減らした。

 これは唯一竜の力を操る方法だとされるが、完全に力を操るまでには相当の時間を要し、この期間は白き竜による破壊行為を防ぐことができなかった。≫





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 竜石の力で思ったよりスルスルと文章が頭に入ってきた。なるほど、これまでのことが少しずつだが補完される。この本に寄れば、以前救世主と呼ばれた人物もそれなりに苦労して力を手に入れたということらしい。

 気になるのは、その先の記述が何故か黒く塗り潰されてしまっていること。ページをめくって裏のページに透けていないか確認するが、裏移りはしておらず、透かしも効かない。


「この本って、一冊だけ? 同じ本がどこかに保存されている可能性は?」


 どうしてもこの先が気になる。

 モニカは首を捻り、


「干渉者協会には置いてある可能性がありますけど、もしかしたらこの本自体が協会のものなのかもしれません」


 本を一度パタンと閉じて、表紙の裏を確認する。


「あ……、やっぱり協会のものですね。最近文書は大抵デジタル化してしまいますから、もしかしたらデータで確認できるかもしれません。行ってみますか?」


「だな。どうせ鑑定とやらもしてもらわなくちゃいけないようだし、ついでってことで」


 俺は本を抱えて立ち上がった。





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