拒絶2

「二人ともかなりの年下。もしかして、お前の守備範囲だったか。それとも、凌の方がモニカを襲ったりは」


「ないです」


 俺もモニカも、同じタイミングでピシャリと言った。


「ならば問題なかろう。ま、間違いがあったらあったで面白そうだがねぇ。最近の若いもんは冒険すら拒むから面白くない」


 どんな冒険だと突っ込みたくもなるが、話がややこしくなるのでグッと堪える。


「ノエルも言いたいことはあるだろうが、これも経験のウチだと思って協力し給えよ。私はお前を買っているのだから」


「わ、わかってます」


 口をとがらせ、そっぽを向くノエルの顔が少し赤い。


「森が、また消えたらしいのだよ」


 ソファに身を委ね、紫煙を吐き出しながら、ディアナは唐突に言った。


「時空嵐は別名を“竜のため息”と言ってね、かの竜がこの世界の滅亡を考える度に巻き起こるのだと……、そう伝えられてきた。実際、かの竜の動きが活発になってきてから、どんどん森は削られていった。これだけ頻発するとなると、本当に消えるのは森だけなのかと心配になってくるほどだ。キャンプの近くでも森が削られたというし、予断を許さない状況になってきているというのに間違いはない。私やこの世界のために力を注いでくれている能力者たちは、とにかく都市部へのダメージだけは避けなければと必死に結界を張り続けているが、それだっていつまで持つことやら。そういった意味でも、この世界は窮している。さっさとかの竜を撃退し、悪魔を倒し、安心して都市部で暮らせるようにすることが必要不可欠なのさ」


 全てを呑み込む黒い嵐――巻き込まれ過去の世界に飛んだことを思い出すと背筋が凍る。もし仮にあのキャンプが根こそぎ時空嵐に呑まれたらとんでもないことになる。


「かの竜は何故世界を滅ぼそうと? 自分が生きる世界がなくなってしまったら、行き場所なんてどこにもなくなってしまうってのに」


 俺が言うと、モニカとノエルも僅かながらうなずいていた。


「それだけどね」


 ディアナはまた、ゆっくりと紫煙を吐いた。


「よく、わからないのだ。どうやら長い年月を生きている竜らしいから、その長い一生の中で何かしら切っ掛けのようなモノはあったんだろうけどね。記録を辿るにも限界がある」


「『いずれ“表”と“裏”の区別が付かなくなる』って……聞いたことは?」


 恐る恐る尋ねると、ディアナはビクンと反応してキセルを口から離した。


「なんだ……それは」


「テラが言ってたんだ。昔そういう話を聞いたらしい。そのとき、かの竜だけは『その混沌を見てみたい』と言ったんだと。もし、だけど。もし仮にそれが本当だったとして、かの竜がこの世界を滅ぼそうとしているのは、“表”と“裏”を融合させようとしているから……なんてことは、ないよな。あんな巨大な竜が住めるような場所、“表”にはないし」


「ないなら作れば良いという考えもある。それを実現させないためにも、どうにかして“裏”でかの竜を倒さねばならない。場合によっては危険を冒すことになるかもしれないね……」


 ディアナはそう言って、俺たちから目を逸らした。

 心なしか、前より少し、身体が細くなっているような気がしてならなかった。





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