暴露2

 エントランスの壁にある集合インターホン、美桜の部屋番を押して呼び出す。しばらくすると音声が。


『どちらさまですか』


「来澄です。美桜さんはご在宅ですか」


『はい。今お開けしますね』


「ありがとうございます」


 ポッと解除ランプがともったことを確認し、エレベーターへ。


「今のが飯田さん?」と陣。


「美桜が小さい頃から世話になってる家政婦さん。品のいいおばあちゃんだよ。美桜も飯田さんには心配かけたくないらしくてさ」


 レグルノーラでは美桜がまだ年端のいかない頃から付き合いがあるジークだが、“こっち”の事情は彼女がなかなか話そうとしないこともあって、把握していないのだろうか。

 エレベーターに乗り込み、美桜の部屋のある八階へ。

 陣は黙って俺のことをまじまじと見ている。何を考えてるのか推測するのも何だか嫌で、俺は目を逸らしてずっと階数表示のパネルだけ見ていた。

 部屋の真ん前まで来て再度インターホンを押す。部屋の鍵がカチッと開いて飯田さんが現れた。


「いらっしゃいませ、来澄様。そちらは――」


「初めまして、陣郁馬です。美桜さんにはいつも仲良くしていただいています」


 後ろからスッと前に出て陣が深々と頭を下げると、飯田さんは満面の笑みで迎えてくれた。

 玄関に通され、部屋に上がる。飯田さんはリビングに俺たちを案内し、そのまま美桜の部屋の方へと向かっていった。

 ソファに二人腰掛けて、耳をそばだてる。飯田さんは美桜と何やら会話しているようだったが、戻って来たのは飯田さんだけだった。


「ごめんなさいね。お嬢様はおいでにはならないみたいで。……実はここしばらく、お嬢様は殆どお部屋に籠もりきりで。お食事も摂らず、お返事のないこともあるのです。来澄様なら何とかしてくださるかもしれないと、私の判断でお通ししたのですけれど」


 飯田さんは困り果てた様子で、心配そうに美桜の部屋の方に目を向けている。陣の言う通り、何かが起きているのは間違いなさそうだ。


「あの」


 と、飯田さんは床に膝を付いて、覚悟を決めたように話し出した。


「お嬢様は、何を隠していらっしゃるのでしょう」


 胸が痛い。

 飯田さんの思い詰めたような顔を見ていると、何か一つでも話せたらいいのにと思う。


「幼い頃からご苦労ばかりなさっているのです。お母様がお亡くなりになり、お一人で必死に悲しみに堪えていたお嬢様もすっかり大きくなられましたが、まだまだ支えが必要なお年頃。お嬢様は私には何もお話しくださいません。気に病むようなことが重なり、とうとうお嬢様の心が折れてしまったのではないかと、心配でならないのです。どうか、事情をご存じならお嬢様を救ってはくださいませんか。来澄様、陣様。どうか……!」


 床に手を付き、頭を下げて懇願される。

 俺は居たたまれなくなって、思わずソファを降りた。


「飯田さん、頭を、頭を上げて。美桜のことは何とかします。今は詳しく話せないけど、きっと大丈夫だから」


「――来澄様は、不思議な力が使えるのですよね」


 飯田さんの手が俺の肩を掴んだ。


「この目で見ました。あの日、来澄様が不思議な力でお嬢様をお部屋に運んでくださったのでしょう。物の形を変えたり、何もないところから出してみたり。そういう力があるのですよね。どうかお願いです。その不思議な力で、お嬢様を助けてはくださいませんか」


 ヤバい、という言葉が先に浮かんだ。

 誤魔化しきれてなかった。あのときはすっかり上手くいったと思ったのに。

 飯田さんの目が、必死に訴えてくる目線が、痛い。逸らしたいのに、逸らしたらダメだと頭の中で警報が鳴る。


「お嬢様も、不思議な力を使うお子様でした。今はもう見ることはなくなりましたが、幼かった頃はよく不思議な力を見せてくださいました。突然花を出したり、お着替えなさったり、居たと思ったら別のところから出てきたり。手品かと思ったこともあります。でも、違うのでしょう。来澄様も、お嬢様と同じような力を持ってらっしゃる」


 飯田さんの目が潤んでいる。

 これ以上誤魔化すなんて、無理だ。

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