秘密の共有3
そもそも彼の中身は大人で、必要に迫られ“こっち”の世界で高校生を演じていた。当然、補習など縁遠い。それもあってか今までずっと姿を見なかった。
補習を終え、一緒に部室で過ごしていた芝山が塾へ向かい、須川が先に帰るねと居なくなった直後だった。
開襟シャツのボタンを更に一つ外して裾を出し、明らかに着崩した格好で現れた陣は、どことなく神妙な面持ちで、
「よぉ」
と片手を上げて部室へ入ってきた。
「久しぶり。元気してた?」
「まぁな」
当たり障りない挨拶を交わし、冷蔵庫から冷えたサイダーを出す。そろそろ在庫が尽きそうだ。箱買いの時期か。
陣は俺とはす向かいの席にドカッと座って、プシュッと缶を開けた。グビグビ気持ちよさそうに喉にサイダーを流し込み、長く息を吐くと、両肘を長机に乗せて俺の方に向き直った。
「最近、美桜と会った?」
「いや。アイツ、補習関係ないし」
「そっか。だよね。じゃ、ディアナ様とは接触した? ……って、わざわざ凌の方から会いに行くことはないか」
陣は一度目を逸らし、何かを思案した。
「何か、あったのか」
「あったというか、何というか。気のせいだといいんだけど」
陣は勿体なさぶって、なかなか話そうとしない。
扇風機の首振り音がゆっくり聞けるほど黙って、またため息を吐く。
「夏休みに入ってから陣は、“こっち”全然来てないんだろ。“向こう”で何かあったとか」
「いや、まだ何かが起こったというわけではないんだ。ただ、色々と気になることが出てきて。とりあえず凌が一人になったのを見計らって来てみたわけだ」
見計らって、と言われてハッとした。そういえば陣は“向こう”では裏の干渉者ジークとして小型のカメラで“こっち”を監視していたんだ。ということは、もしかして。
「陣は古賀のこと、知ってるのか」
念のため、聞いてみる。
「ああ。物理の古賀先生、だっけ。二次干渉者らしいね。あり得ない話じゃないんだろうけど。ノーマークだったな」
陣にさえわからなかったと言うことは、それだけ見つけにくい存在だったってことか。やはり、二次干渉者は鬼門だ。
「そういえば怜依奈のこと、ちゃんと面倒見てるみたいで感心した。あの力が全部プラス方向に働けば、かなりの使い手になるんじゃないかな。……って、そういうことを話しに来たわけじゃない。一度、二人で美桜のところに行ってみないか。最近、様子がおかしいんだ。彼女、昔から自分のことはあまり話さないし、困ったことがあっても絶対に相談しない。だから、何かあると周囲が察したらすぐに駆けつけてやる必要があってさ。非常に言いにくいんだけど、僕一人じゃどうにもできない可能性もあって。凌ならもしかして、なんとか出来るかもしれないから、できれば一緒に行って欲しいんだ」
陣は真剣だった。が、直ぐに詳細は言わない。
「行くのは構わないけど、居るかどうか。連絡、しとこうか」
スマホを取り出そうとすると、
「いや。彼女はそうそう出歩いたりできないはず。直接行こう」
「何焦ってるんだよ」
「凌がどこまで知ってるかわからないけど、彼女、かなりの訳ありで。実は僕も、こういうことになってからディアナ様に詳細を聞いて、心臓がバクバクしてるところ。知ってたらもっとできることがあったろうに、肝心なことは誰も何も言わないんだ」
整った顔を歪ませ、ギリリと悔しそうに奥歯を噛む陣。相当苛立っているらしい。
あまり考えたくない。考えたくはないが。
「それって美桜の出生と、関係……ある?」
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