三角関係3
「ちょ、ちょっと待って。わかったから俺の話も聞いて。須川さんは結局、俺のことをどう思ってるわけ。美桜との関係についてもどう理解してるのか、そこら辺ハッキリしてもらわないと、今後色々ありそうだろ。教えてくれよ」
グイと顔を寄せてきていた須川のせいで、俺は完全に仰け反ってしまっていた。こんな所美桜に見られたらまた面倒なことになりそうだ。ま……、アイツは補習なんか関係ないから学校には来てないみたいだけど。
「芳野さんと付き合ってるって話は、半分ホントで半分嘘なんじゃないかと思ってる。芳野さん、結構強引そうだし。どういう事情があるのか知らないけど、それでも彼女の部屋に行ったりする仲なんでしょ。で、キスは……やっぱりホントなんだ?」
「あ……う、うん。まぁ」
アレをキスとカウントするなら本当ってことなんだろう。あんな状況じゃなかったら押し倒していたかもしれないシチュエーションだったのに、俺は色々と損をしている気がする。
「キスするくらいだから、私が割り込むような隙はないのかもね。でもさ、なんかこの間のことがあってから、来澄君に惚れ直したみたいなんだ。誰かのためにあんなに一生懸命になれるのって格好いいじゃない。普段はそういった素振りを見せないところとか、女子に媚びないところとか。ポイント高いんだよね……。自覚ないでしょ。そういうところがまた、乙女心をくすぐるわけよ。で、あんなに嫉妬して、自分で抱え込んで爆発させてしまったわけだけど。ああならないためにはどうすればいいのか、私なりに考えてみたんだ。聞いてくれる?」
言ってまた須川は身体を前に乗り出した。
「私、来澄君のことを諦めないことにするわ」
――しばし硬直し、頭の中で須川のセリフを反芻させた。
何?
俺は思わず顔をしかめた。
「諦めないから。私やっぱり、来澄君が好きなんだ。だから、芳野さんと付き合ってるとか関係なしに、勇気出して来澄君ともっと関わろうと思う」
暑すぎて頭に虫でもわいたのかと思ってしまう。
何それ。三角関係を宣言するって、そういうことか?
そんなのまともじゃない。
相手はあの芳野美桜だぞ?
「いや……、好意はありがたいけど、ホントあの、面倒くさいことになるからそういうのは勘弁してもらいたいっていうか何というか。俺、須川が思うほど優しくないし。どっちかっていうと人付き合い苦手で。できれば平和に暮らしたいんだけどさ」
「平和なんて、来るわけないだろ。こりゃ、地獄だな。ご愁傷様ぁ~」
芝山がパチンパチンとやる気のない拍手で修羅場を歓迎する。
勘弁。マジ勘弁。
ホント、面倒なのは嫌いだって何度も言ってるのに、どうしてこう、思うように物事が進まない。
「Rユニオン? イマイチ理解できてないけど、来澄君と一緒なら私も入ろうかなって。力……あるんでしょ? 私。なら、来澄君に協力できることもあるかもしれないし。色々教わって、今度は迷惑じゃなくて力になれたら嬉しいじゃない。ね、だから“向こうの世界”への行き方や魔法の使い方、教えて欲しい。お願い……!」
ハッキリさせて欲しいと言ったのは俺だけども。
ハッキリしたらしたで、何かとってもヤバイ方向に進んでいくんじゃないか。
いっそのこと、美桜とは付き合っててやることまでやっちゃってまーすなんて言ってしまった方がスッキリする? ……いやいや。何もしてないのにそんなこと言えるはずもなく。
盛夏仕様で外している一番目のボタン、その間から須川の胸の谷間がチラッと見えた。芝山が一緒である意味良かったのかもしれない。二人きりでこんな狭いところにいたら、変な気を起こしてしまう可能性だってなきにしもあらずだ。
「おね、がいは、聞いてもいいよ。その、つまり、レグルノーラに行くとか魔法とか。そっちは。でも、須川さんの気持ちには悪いけど答えられないっていうか、美桜のことを裏切ることは出来ないっていうか、そういうことだから、そこは理解してもらいたんだけど」
変なことを考えてしまいそうで、言葉がどもった。
ただでさえ暑いのに、あっちこっちに嫌な汗かきまくりだ。
「わかってる。ところでさ、付き合ってることは素直に認めないのに、どうして芳野さんのことは下の名前で呼ぶわけ?」
「え……っ、そ、それは」
そういや、美桜のこと最近芳野さんだなんてあまり呼んでなかった。意識して呼ぶように心がけないといけなかったのに、うっかりした。
「それはね、須川さん。いや、怜依奈。干渉者同士は下の名前で呼び合うっていう慣例があるからさ。レグルノーラにはファミリーネームがないからね。だから君もボクのことを哲弥って呼んでいいんだよ」
キラッと、芝山が眼鏡を光らせた。
コイツ、美桜のこと好きとかいってたのは何だったんだ。それにあんな色々あったってのに、突然須川に鞍替えか?
「安心して、呼ばないから」
須川は芝山を一刀両断し、それから俺にニッコリと微笑みかけてきた。
「じゃ、私も“凌”って呼ぼうかな」
「えっと……、それはあの」
「“凌”って呼ぶね。私のことも“怜依奈”って呼んでよ。ね!」
須川の手がスッと伸びて、俺の汗だくの手を掴んだ。
柔らかくてサラサラした手が俺の両手を包み込む。
「ね、決まり。で、どうやったらレグ……何とかに行けるの?」
須川怜依奈はやたらとご機嫌で、俺はもう何も言い返すことが出来なかった。
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