結果オーライ2

「夏休み直前なのに同好会申請なんて珍しいって、言われたよ。夏休みにも活動するのでってことで、何とか通してもらったけど。でもさ、お陰でホラ、居場所ができたことだし。やってみて良かったじゃないか」


 雑巾片手に芝山は嬉しそうだった。まるで新しいおもちゃを買ってもらったばかりの子供のように、鼻歌を歌いながら床の汚れを落としている。

 あてがわれた部室は三階にあり、両隣は将棋部と華道部で、そいつらは週一程度の活動らしい。

 広さは六畳程度、ホワイトボードもあるし、くくり付けの棚や机もある。人目にも付きにくそうだし、ここでなら遠慮なく話ができそうだ。

 雑巾係は俺と芝山で、美桜は以前この部屋で活動していた部活の置き土産の掃除、陣は蜘蛛の巣取りと箒がけ。元来真面目なヤツが多いせいか、掃除はかなりはかどった。

 須川はまだ来ない。芝山が部室の掃除に誘っていたはずだが、もう帰ってしまったのだろうか。まぁ、人数そろえるために無理やりメンバーに入れたわけで、来なくても仕方ないというか、来ても面倒なことになるだろうし来なくてもいいかななんて、口には出せないが俺は勝手に思っていた。


「どのくらい使われてなかったの? 二、三年?」


 と美桜。


「どうだろう。詳しくは知らないけど」


 芝山が椅子の脚を拭きながら答える。


「ねぇ、お笑いブームって、ちょっと前にあったわよね。ここ、お笑い研究会だったみたいよ。部誌っぽいの残ってる。ネタ帳……かしら」


 美桜の手には端がボロボロになった大学ノートが数冊。くくり付けの棚の隅に置いてあったものを取り出したようだ。表紙には汚い走り書きの字で何か書いてある。どれどれと見せてもらうが……、あまりの内容に言葉を失う。


「あ、うん。文化祭用、かな? 知らないけど」


 だとしたら、ものすごく白けただろう内容が汚い男の字で書き連ねてあって、悲しい気持ちになった。まぁ、人の趣向などそれぞれなのだから、何も言うまい。

 それこそ、お笑いが好きなヤツもいれば、おどろおどろしいのが好きなヤツもいるし、変に格好付けたようなもんが好きだったり、爽やかに青春するのに夢中なヤツだっている。

 特にコレといって何にも興味を持つことができず、今の今まで適当な高校生活を送っていた俺が、まさか“裏の世界”に足を突っ込んでこんなことをする羽目になるなんて、当然少し前まで思いも寄らなかったわけで。人間関係なんて面倒くさい、誤解されるくらいならば付き合わない方がマシだっていう考えも、どうやら否定されまくっている模様。自分がどう考えていようが、相手は物好きでどんどん俺を引っ張っていく。

 このユニオンだって、端から見れば物好きの集まりくらいにしか見えないのだろう。芝山の提示した変な活動内容……『並行世界RとR影響下における物理的概念の崩壊に対する研究と意見交流』ってのが、更に怪しい団体という印象に拍車をかけてしまったような。俺もその一員にされてしまったのかと思うと、何とも微妙な気持ちになってしまうのだが。

 ゴミを纏め、掃除用具を片付け終わった頃、ガラガラと戸が開いた。

 半開きの戸から顔を出したのは、須川だった。


「待ってたよ、須川さん」


 ニコニコ顔なのは芝山と陣だけ。

 須川の顔を見るなり、美桜があからさまに嫌そうな顔をした。


「ま、入って入って。今綺麗にしたから」


 芝山は部室の中央に置いた長テーブルに荷物を置かせ、座るよう促すと、芝山は須川の真ん前に立って深々と頭を下げた。


「ありがとう。お陰で部室がゲットできた。色々思うことはあるだろうけど、“裏の世界レグルノーラ”に関わるもの同士、仲良くしようよ」


 とってつけたような感謝の言葉に、須川でなくてもげんなりした。

 あの騒ぎがあって、その後のコレだぞ。あんまりだ。


「仲良くなんてできるわけないじゃない。あんた、馬鹿?」


 あごを突き出して須川は芝山を罵倒した。足を組み、長机に肘を付いてものすごくご機嫌悪そうだ。

 芝山もカチンときているのだろうが、グッと堪えたのだろうか、短く息を吐いている。


「こんなこと聞くのは何だけど、魔法……使いなの? あんたたち」


 普段使うことのないだろうセリフを吐くのは勇気がいる。須川は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


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