66.結果オーライ

結果オーライ1

 連休明けからは夏休み。授業の後に夏期補習についての案内があり、俺はどの授業でももれなくその出席義務を告げられていた。期末テストも受けられなかった手前、仕方ないと言えば仕方ない。範囲は膨大で頭に入るかどうか疑問だが、どうにかしなければ夏期補習どころか追加で課題を山ほど出されそうな勢いだった。

 海の日の翌日から七月いっぱい、午前中ギッシリと補習がある。確認テストにパスしたら早めに終了らしいが、半月以上授業を受けていなかったこともあって、全くと言っていいほど自信がない。

 休み時間に下敷きで顔を扇ぎながら遠くを見つめていると、前の席の美桜が振り返り、残念そうな顔を向けてきた。そりゃそうだ。残念だ。せっかくの夏休みが2週間近く束縛されると決まってしまったのだから。


「やっぱり、長く休んだのが効いたわね」


 全くだ。

 それもこれもディアナの仕業だ。というと、ディアナは目を見開いて、お前の体力が足らんのだとか言いそうだけれども。


「でも、何とかなるんじゃない。芝山君、あなたに勉強教えてやるつもりでポイント集用意してるみたいだし。運良く五人集まって変なユニオンも作れたんだから、結果オーライだと思うしかないわね」


「結果オーライね……」


 視線を感じて窓際に目をやると、須川が相変わらず黒いオーラを纏わせながらこっちを睨み付けている。

 この状況のどこが結果オーライなんだ。


 俺が血だらけの美桜と共に転移魔法で教室を去った後、陣は芝山と二人で魔法を使い、教室を元通りにしたらしい。

 駆けつけた教師と生徒らが2-Cの教室を確認に来たときには、既に全てが元通りになっていて、誤報だったかと首を傾げていたそうだ。

 あのとき、何人もの生徒が黒い大蛇を目撃していた。だが、突然の出来事過ぎて写真の一枚も撮られなかったことが幸いしてか、それが夢だったのか幻だったのかと、うやむやになりつつあった。あんな大騒ぎがあったはずの教室は元通りになっているし、次の日には須川も美桜も、芝山も陣も俺も、何ごともなかったかのように登校してるしで、まぁ要するに、目撃者の証言に説得力がなくなってしまったのだ。

 俺にとって一番不可思議だったのは、芝山と陣がどうやって須川をユニオンに引き込んだか、ということだが、そんなことは後で本人たちにゆっくり聞けばいい。

 それより、あんなことがあってもまだ須川は美桜に対して悪意を持ち続けている、そっちの方が気になってならない。

 女は面倒くさい。

 美桜もメチャクチャだが、須川はもっとメチャクチャだ。

 人数足りないからって、無理やりユニオンに須川を引き込もうと思った芝山の気が知れない。一体、何を考えてるんだか。


「補習にはボクも出るよ」


 いつの間に現れたのか、芝山が眼鏡を光らせて得意げに言った。


「芝山は補習の対象外だろ。馬鹿かお前」


「一学期の復習兼ねて出たい人は出るようにという話だったじゃないか。うちの塾の夏期集中講座は午後からだから、午前中は学校に来ようと思う」


 ……俺の理解を超えた勉強好きがそこにいた。ど阿呆もいいところだ。

 俺は口を半分ポカンと開けて、そのまま思いっきり身体を後ろに引いていた。


「お前、勉強してないときは普段何してんの。勉強してんの」


「君が何を言いたいかボクにはさっぱりわからないが、勉強自体は悪いことじゃない。むしろ、今やらずにいつやるんだという気持ちで向かわなければ、再来年の今頃君はニートだぞ」


「ほっとけ」


「というのは冗談で、“向こう”にはボク一人じゃ飛べないからさ……。とりあえず、来澄が学校に来てるときはボクも来ようかと思って。補習中に飛ぶってのも悪くないかなって」


 な、なるほど。

 そういえば芝山は二次干渉者だった。美桜がいなくてもどうにかなるように、俺の影響下で動けるよう変更する魔法をかけたのを思い出す。

 あれだけ才能があっても、一次干渉者にはなれないってのも、不便な話だ。経験さえ積めば、芝山なら俺よりもっとスマートに“こっち”でも力を使えるようになるんじゃないのか。


「そういえば、ユニオンの申請通ったから、報告まで。掃除必要なんだ。放課後暇だったら来て」


 芝山は言うだけ言って、須川の方に歩いて行った。どうやら彼女にも同じことを告げているらしい。須川は機嫌悪そうに相づちを打っていた。





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