ユニオン2

 首に絡みつくように腕を伸ばして、頬を擦りつける様は、以前美桜の竜リリィやライルの竜フューにしていたのと同じ仕草。頭ではわかっているのに、何故だかテラに嫉妬してしまいそうになる。それほど、美桜は激しくテラを愛撫した。


『な、それほど気にする必要などなかったのだ』


 美桜に抱きつかれながらテラはウインクした。

 ウインクなどされても、全く嬉しくない。どっちにしても、美桜の記憶がどこまで正確なのか、あんな昔のことを思い出さない程度に話していかなくてはならないのは一緒なんだから。


「僕のことは……、覚えてる? いつぞやは迷惑かけちゃって」


 今度はジークがペコペコとテラに頭を下げている。

 いつぞやというのは、多分美桜の竜リリィを連れてきたときのこと。だが、あのときの記憶の一部は五人衆のバドに消されたはず。とすれば、あの日リリィを連れてくるのに苦労した、そのことを言っているのだろうか。


「覚えてるぞ、ディアナの使いだったな。今ではいっぱしの干渉者のようだが」


 ようやく美桜を引きはがしたテラは、身なりを整えて立ち上がりながら、ジークに向かって口角を上げた。あのころジークはまだ年端のいかない少年で、小さな竜を一匹連れてくるのにも苦労していたのだった。

 ジークは改めて申し訳なさそうに眉をハの字にして、俺に謝ってきた。


「悪かったね。もしかして自分の竜が美桜のお母さんの竜だったってこと、言い出しづらかった? ディアナ様のやりそうなことだけど、多分意味があることだと思うから、深く考えることはないよ。ただ……あのときに見た彼とは全然姿が違うから、気が付くのに少し時間がかかったけどね」


 姿が違うというのは、俺があるじになって、テラの見てくれがトゲトゲしくなったって、そういうことか。竜はその性格もあるじに依存するらしいし、こればかりはどうしようもない。


「ある程度、それぞれに繋がりがあるってことか。興味深い」


 シバが全体を俯瞰したように言った。

 確かに、あちらこちらで誰かが誰かと繋がっている。それぞれの間にそれぞれの関係があって、複雑に絡んできている。


「例えばだが……、“ユニオン”というのはどうだろう」


 シバの一言に、場が止まった。


「ユニオン……? 同盟ってこと?」


 と美桜。


「そう。同盟。レグルノーラの事情を知ってる者同士の同盟。毎度こうやって“裏”に飛んで来て話をするのも大変だろう。ならばいっそのこと、学校の中でユニオンを形成すればいい。いわゆる同好会的なものを。そうすれば、表だって集まることも不自然ではなくなる。陣君さえよければ、だが」


「え、ちょっと待って。それって、秘密裏にってわけじゃなくて、まさか、堂々と集まろうって話?」


 まさかと思いながらも、隣のシバに質問を寄せる。

 シバは大まじめな顔をして、


「当たり前じゃないか。コソコソしている方が怪しい。それこそ、君と美桜の仲を私が疑ったように、だ。むしろ堂々と集まっていた方が怪しまれずに済む。五人集まれば同好会として生徒会に申請できるし、部室もあてがわれるはずだ。確か二つほど空き部室があったはずだし、問題もないだろう」


「ちょ……ちょっと待って。四人だ。この場には四人しか居ない。今の話、無理だから。竜のテラは“表”には行けないはずだし……、だよな? だから、そういうのはちょっと」


 両手で牽制するも、シバには通じない。


「私も、できれば表沙汰にはしたくないわ。誰もが来られる世界ってわけじゃないし、知らずに過ごす人が大部分なのよ? わざわざそこまでしなくても」


 美桜が言うと、シバはその言葉を待ってましたとばかりにニヤッと笑いを浮かべて両腕を組み、背筋を伸ばした。


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